2日目昼の部その③
お土産とは旅行に行った時、大事な人にプレゼントをするものである。家族とか友人とか日頃お世話になっている人とか、そういう人たち。俺に置き換えたならそれは、家族はいないし、友達もいないから、必然的に対象はバイト先となってしまう。
とあるグループLINEに招待された。誰かを拒むことの少ない俺は、何も考えずに了承した。その瞬間だった。
『にーくら!!お肉食べたーい』
と書いたのはマイメロのアイコンをしたハシラというアバターがそんな書き込みをした。
『新倉くん肉味噌とかでいいよ』
といつの彼氏かわからないツーショットの写真がアイコンの五領先輩が付け足した。
『但馬城のストラップとか欲しい。無理はしないで』
お城の写真をバックにした風光明媚なアイコンをしている辻子先輩は遠慮しがちに注文しており、
『……お菓子でいいよ』
アイコン画像が初期設定のままの樫田先輩は一番気を遣っているようで一番反応に困ることを言ってきた。なるほど、グループ名はメシバイト。そこには乃愛と塚原真琴の名前もあった。
なるほど、お土産を買ってこいとそう言っているのか。俺は呆れ顔をしつつも、
『年上の方にはお金いただきますから』
と返した。無論その後通知が止まらなくなった。
『あー!お肉ハシラのお金でいいなら全然許すわ』
『ちょっとゴリョ先輩!!なんてことを言うんですか!!』
『但馬牛ってマジうまいらしいからな』
『せーんぱーい!私、霜降り肉が食べたーい』
『まこちゃんも辻子くんもウェイトウェイトウェイト』
ちょっと待ってと気持ち悪いウサギのぬいぐるみが掌を見せるスタンプが連打されていた。まさに現代風の会話。時代に取り残された俺にはついていけないものだ。
「なんかさ……やたらときてるね」
お土産屋さんへ向かう途中、たまたま隣の席に座っていた乃愛がそう言った。後ろでは遊び疲れたのか、3人とも寝惚けていた。古森と遠坂と竹川だ。
「通知?」
「うん」
「お土産なあ、こんなに買えねえよ」
「私も協力して買ったるわ」
「それ結局俺らの財布から出ていってね?」
「確かに。財政やばすぎ」
寝ている人がいるからか、少し声量抑えめに話す乃愛。でもその姿は、一昨日までと何ら変わらないように見えた。いや、変わらないようにしてくれていたのかもしれない。
もしかしたら、終わってみたら大したことのない非日常なのかもしれない。乃愛がいなくなって、また1人で生活を始める。そしていつか、そんな時期もあったなって、忘れちゃうのかもしれない。
彼女の笑顔はそれくらい儚げだった。触れたら壊れてしまいそうだった。でもそれを承知で、俺達はこれまでの日常を表面だけなぞっていた。




