2日目昼の部その①
「あっ、米地みそ」
俺はふと、店長から頼まれていたお土産について思い出した。買って帰ってこいとお金まで渡されたのに、忘れてしまうところだった。
思ったよりも上手くできたカレーに舌鼓を打っていたが、それが気になって集中が散漫になってしまった。あーどうしよう。行きしなの道の駅に売ってなかったし、なんならお土産コーナーにも取り揃えられていなかった。もしかしてめちゃくちゃ地味な名産品なのではないだろうか?だとしたら結構困る。
「米地みそ?新倉は随分と地味な名産知ってんだな。大体但馬牛か蟹って相場は決まってんのに」
隣でルーを啜っていた新河に呟きがきかれてしまっていたらしい。まあ別に聞かれてもいい話だったから良かったけれど。
「いやバイト先の店長から買ってくるように言われてさ」
「ほーん。その店長が物知りだったのか」
「昔食べて美味かったとかなんとか言ってな。お金もらってんのに買ってこなかったら怒られんだろ?」
「そりゃあな。誰でも怒るだろ」
「新河はその辺知ってる?どこに売ってるのか」
そう言いつつ俺は最後のご飯を口に入れた。
「知らねえなあ。知識として知っているだけだわ」
新河も最後のルーを流し込もうとしていた。その時だった。電話が鳴り響いた。ブーブーと音を立てていた。誰からだろうと画面を見たら、見覚えのある人からだった。俺はあえて電話を切った。あの人の関係者と話す気分じゃなかったのだ。
「電話鳴ってたけど、出なくていいの?」
先に食べ終わってお皿を回収しに来た近藤にもそう突っ込まれてしまった。俺はお皿を渡しつつ答えた。
「いいよ、知らない人からだったから後で番号調べ直す」
「ふーん」
近藤は特に疑義も挟まず洗い場へ持っていった。咄嗟についた嘘だったが、出たくないのだから仕方がない。
「新倉って意外と慎重派だよな。俺なら真っ先に取っちゃう」
「取るなよ。変な電話だったら……」
また携帯がブーブーとなり始めた。同じ人からだった。もう一回無視してやろうかと思い、そのままスルーしていた。
「……まあでも、たまにさ。たいしたことない連絡だと思って放置してたら、実は大事なお話だったとかさ、あるじゃん」
新河はそう言って暗に電話に出ろと言ってきた。こういうたまにチクリとしたことを突き刺す新河が、こんな時だけいやらしかった。
「んじゃかけてくるわ」
「ふーい、俺は黒服さんにどこにお土産売ってるか確認してくる」
そう言いつつ森の茂みに入って個人スペースを十分確保した。その上で電話に出た。
「あんた、いつまで待たせてんの?」
電話主は最初と変わらず、塚原真琴からだった。




