4月14日その⑥
「なんかこれ、友一に似てる気がする」
店を出るや否や不本意なことを言われてしまった。20皿めに乃愛が当てたのは、えんがわをモチーフにしたよくわからないキャラのキーホルダーだった。えんがわんという名前らしい。いくら子供向けのサービスだとしても、ネーミングセンスがなってないのではないか。そんな呆れた感想を浮かべた俺とは裏腹に、乃愛は嬉しそうに階段を降りていた。
「えらく嬉しそうじゃねえか」
「そりゃ、私は昔っからこのガラガラ当ててみたかってんもん!子供の時とかよくここに来て、いっぱい食べとったけど、一回も当たらんかったんやで!まさか今日当たるなんて……」
そう言いつつ乃愛はそのえんがわのキーホルダーに頬ずりしていた。
「よーし、こいつ大事にしよ!」
「まあ、タダでもらえるなら悪くないしな」
そして駐輪場で鍵を開けた。お互い自転車に乗ってここまで来ていたから、後は同じ部屋に帰るだけだ。
「にしても今日は楽しかったわ!久々にお腹いっぱい食べられた気ぃするわ」
「俺も!むしろ少し食べ過ぎたかもしれん」
「明日からの飯の量で文句言いそうやな」
「もっと食わせろー!って?」
ニヤッと笑ってお互い自転車にまたがった。そして漕ぎだすのかと思ったら、乃愛は少しその場で空を見ていた。
「どうした?」
「星、見えんね」
「そりゃ街灯があるからな。お店の灯りもあるし。ま、そんなんなくなってもこの辺で星なんて見えねーよ」
「そりゃ、そうやけど…」
もはや相当な田舎でないと、星なんぞ満足に見えないだろう。この日本は、星を見るには灯りが強すぎるのだ。
「昔は届かん光に手を伸ばしとったのに、遂に見えへんくなってもうたんやね」
「これから生まれてくる子達は、最早星の存在すら忘れちゃうかもな」
「あ、それなんかロマンチスト!友一ロマンチスト!!」
「……お前さっき俺のことロマンないとか言ってなかったか?」
少し照れつつ突っ込むと、向こうも少し照れていた。彼女の突発的謎行動にはまあまあ耐性がついてきたが、だからと言って何故いきなり星の話をし始めたのかは皆目検討がつかなかった。
「帰ろっか?」
そう俺が提案する。
「うん」
にこやかな笑顔で乃愛が答える。そして2人でペダルを踏んだ。並走はしない。いつだって乃愛が先で、俺が後だ。
乃愛の背中を見ていた。楽しかった今日という日を思い返していた。俺は別に、もう十分なのだ。こんな日が続いてくれるだけで、極上の幸せなのだ。
赤信号で停車する。隣の信号は既に点滅していた。待つ時間はそんなに長くないだろう。それを見越したように、乃愛はこちらを振り向かずに呟いた。
「なあ、友一。いつまで続けていけるんかな。こんな毎日」
そして言い終わるとともに、気持ち早めにスタートを切った。俺は乃愛の問いかけに、否定もせず、肯定もせず、ただ黙って彼女の斜め後ろを走っていたのだった。




