彼は全てを拒絶して
ここで告白することは考えていなかった。私は友一君と出会ってまだ数ヶ月しか経っていない。いや高校2年生からしたら数ヶ月もあれば大した時間だとお叱りを受けてしまうかもしれないが、まだまだ私には自信がなかった。友一君は、私のことを見てくれているのだろうか。そもそも彼は、一体何を見て生きているのだろうか。
勝負は9月中旬の文化祭だった。夏の旅行でアピールして、そして最後後夜祭のパーティでラスト締め。そんな絵空事を描いていたのだが。もしかして甘かったのだろうか。
乃愛が、やたらと吹っ切れていた。
昨日までの彼女は、少し友一君にアピールするようなそぶりをしていた。なのに今となっては、まるでふられた後のようなスッキリ感を醸していた。何があったのだろうか。ふられたのならまだいい、付き合ったと言われた日には……3日寝込む自信がある。
告白する前に終わるのは流石に辛い。いやまあ、それも権利だから責めはしないけど。ただ、落ち込むだけだ。
そして何より、彼女をサポートしてきたはずの采花が全然色恋沙汰に入ってこなくなった。むしろ2人を遠慮しているような、のぼせたという友一君に対してほっておけと言わんがばかりの対応。彼女らしくなかった。やはり昨日、何かあったのだ。
カレー作りの時、友一君と新河が戻ってきた。体調が良くなったらしい。その真偽の程は置いて、私は野菜の皮むきを始めた友一君に話しかけてみた。
「ねえ、友一君」
その時彼は、とても真っ直ぐな目でこちらを見てきた。まるで私の感情を、全て見透かしてやろうと思わんが如くの顔だった。
知っている。この顔は、最初に乃愛との関係を疑ったときの顔だ。
「えっあ……あのさ……」
友一君のその顔は、一種の拒絶だった。全てを見透かそうとした上で、こちらへの侵入を拒む視線。
「手伝わなくて……大丈夫?」
それにびびってこんなありきたりなことしか聞けなかった。
「大丈夫だよ。そのかわりあっちで火を起こすの手伝った方がいいよ。また遠坂が謎のこだわりを披露してる」
確かに友一君の視線の先にはまた風向きを待っている遠坂の姿があった。あの男もまた懲りないようだ。私は冗談まじりのため息をつきつつ、それでももう一度友一君の方を見た。
やっぱり彼の目は、私を拒んでいた。いや、全てを拒んでいた。だから私はそそくさと退場したのだった。しかし一つだけ確信した。昨日、絶対に幸せな事象を迎えた訳ではないのだと。
「そ、そうだね。行ってくるよ」
私はそう言うしかなかったのだった。ダメだなあ、私。




