延長戦が始まる④
「どうすれば好きになるかなんて考えているうちは、好きじゃないんじゃねーか?」
俺の答えは早かった。心の底からそう思っているからこそ、返事も速やかだった。少し驚いた新倉の顔を見つつも、俺は少し臭い話を始めた。
「好きになるって、自ら働きかけてなるもんじゃねえじゃん。めちゃくちゃ美人さんがいたとしても、綺麗って思ってもすぐ好きってなる人はそういないし、めっちゃ優しい人がいても、尊敬するって思ってもすぐ好きってならないじゃん。要素で人は誰かを好きになるんじゃない。好きになろうとして好きになるわけじゃない。それは本当に、好きなわけじゃない」
「…………」
新倉は黙って聞いていた。だからこそ俺の舌は回った。伝えたいことがあった。目の前の彼じゃなくて、今の彼女を好きでいていいのか悩む自分に言いたいことだ。
「だから、考えなくてもいいんだよ。本当の答えは、いつだって本人が持っている。でもそれに自信がないから、他人に正しいか聞いているだけだ。でもそんなものいらない。恋愛に理屈もしがらみもいらないんだ」
言い終わって、我ながら臭すぎると身悶えしたくなった。俺だって、こんなことを言ってくれる人を探していたのだ。俺には誰もいないから、自分で自分を励ますのだけれども。
「そっか……」
新倉は、それでも憑き物が落ちていない顔をしていた。俺のアドバイスがイマイチだったのかもしれないが、それ以上に2人の抱えている問題は複雑すぎる。普通の高校生とはかけ離れた過去を持っている。そう、自分に言い訳をしていた。
「因みにさ、昔の新倉は、古村さんのどこが好きだったんだ?」
恥ずかしい恋話だ。何でこんな朝っぱらからしているのだろう。まあいいや。それも含めて自分らしいや。
「……わかんない」
「そっか……」
沈黙が続く。そろそろカレー作りに外でよーぜと言おうとしたら、新倉が口を開いた。
「でも多分、今の乃愛とは別人だと思ってる。理屈じゃなくて……心が」
絞り出したのだろう。もしかしたら認めたくない事実なのかもしれない。でもそれを口に出した。それが拍手を送りたくなるほどで、俺はついこう言ってしまった。
「……新倉は偉いよ。うん。本当にすごい。新倉みたいな人間はさ、いつか報われるさ」
「何を根拠に言ってんだよそれ」
そう苦笑する新倉に、俺も戯けてこう答えた。
「理屈じゃなくて、心だよ」
「心が根拠ってか?」
「そんなもんだよ、俺らなんて」
2人で笑って車から出た。それでもまだ、新倉の顔は冴えていなかったが、少しだけ吹っ切れた顔をした気がした。あくまで気がしただけだけど




