表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
348/365

延長戦が始まる④

「どうすれば好きになるかなんて考えているうちは、好きじゃないんじゃねーか?」


 俺の答えは早かった。心の底からそう思っているからこそ、返事も速やかだった。少し驚いた新倉(にいくら)の顔を見つつも、俺は少し臭い話を始めた。


「好きになるって、自ら働きかけてなるもんじゃねえじゃん。めちゃくちゃ美人さんがいたとしても、綺麗って思ってもすぐ好きってなる人はそういないし、めっちゃ優しい人がいても、尊敬するって思ってもすぐ好きってならないじゃん。要素で人は誰かを好きになるんじゃない。好きになろうとして好きになるわけじゃない。それは本当に、好きなわけじゃない」

「…………」


 新倉は黙って聞いていた。だからこそ俺の舌は回った。伝えたいことがあった。目の前の彼じゃなくて、今の彼女を好きでいていいのか悩む自分に言いたいことだ。


「だから、考えなくてもいいんだよ。本当の答えは、いつだって本人が持っている。でもそれに自信がないから、他人に正しいか聞いているだけだ。でもそんなものいらない。恋愛に理屈もしがらみもいらないんだ」


 言い終わって、我ながら臭すぎると身悶えしたくなった。俺だって、こんなことを言ってくれる人を探していたのだ。俺には誰もいないから、自分で自分を励ますのだけれども。


「そっか……」


 新倉は、それでも憑き物が落ちていない顔をしていた。俺のアドバイスがイマイチだったのかもしれないが、それ以上に2人の抱えている問題は複雑すぎる。普通の高校生とはかけ離れた過去を持っている。そう、自分に言い訳をしていた。


「因みにさ、昔の新倉は、古村さんのどこが好きだったんだ?」


 恥ずかしい恋話だ。何でこんな朝っぱらからしているのだろう。まあいいや。それも含めて自分らしいや。


「……わかんない」

「そっか……」


 沈黙が続く。そろそろカレー作りに外でよーぜと言おうとしたら、新倉が口を開いた。


「でも多分、今の乃愛(のあ)とは別人だと思ってる。理屈じゃなくて……心が」


 絞り出したのだろう。もしかしたら認めたくない事実なのかもしれない。でもそれを口に出した。それが拍手を送りたくなるほどで、俺はついこう言ってしまった。


「……新倉は偉いよ。うん。本当にすごい。新倉みたいな人間はさ、いつか報われるさ」

「何を根拠に言ってんだよそれ」


 そう苦笑する新倉に、俺も戯けてこう答えた。


「理屈じゃなくて、心だよ」

「心が根拠ってか?」

「そんなもんだよ、俺らなんて」


 2人で笑って車から出た。それでもまだ、新倉の顔は冴えていなかったが、少しだけ吹っ切れた顔をした気がした。あくまで気がしただけだけど

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ