表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
347/365

延長戦が始まる③

 それから新倉(にいくら)は、とてもたくさんの話をしてくれた。その殆どは、俺の知らないことばかりだった。


 実は新倉は、養護施設出身だったという。うちも父方の祖父母が養護施設で出会っているから、少し親近感を持った。そして古村(こむら)さんは、あの有名な鷹翅の分家の子だったらしい。既にもう世界観が2次元だが、俺は突っ込まずに聞いていた。


 最初は新倉が古村さんに惹かれたらしい。そしてピアノが養護施設に届いたことをきっかけに、ピアノで古村さんを魅力できないかと考えたらしい。モーツァルトになりたかったと彼は表現した。大層な話だと思ったが、まあ小学生の時の話だしとスルーした。


 しかし古村さんは振り向かず、むしろ攻撃を加えられてしまったらしい。ピアノも撤去され、2人は疎遠になってしまった。うんうん、ここまでは普通の恋愛話(コイバナ)だ。問題はここからである。


 中学3年生の冬、施設から出て一人暮らしをはじめた新倉の目の前に、家から飛び出てきた古村さんの姿があった。その理由については、彼は語らなかった。しかしどうやら後継者争い的なサムシングが行われたらしい。中世ヨーロッパじゃねえんだぞ!?


 そして2人は、歪な同居生活を始めてしまったのだという。1人は家に帰れない、1人は帰る家がない。ならばと同じ部屋に住み始めるのは妥当な流れである。少し下世話な話もしたくなったが、弄っていい流れでも無かったのでやめた。


 そして、今日に至るのである。新倉からしたら、ずっと複雑だったわけだ。初恋の人と一緒に住み始めたのだから、困るのもわかる気がする。しかし、だ。告白をしたのは新倉の方じゃなく、古村さんの方だ。ならすんなりと、受け入れるのではないか?それとも新倉は、別の奴が好きなのだろうか?


 そんなことを聞きたかったのだが……


「すまんな古森(ふるもり)、俺と新倉はのぼせたから午前中車で寝てるわ」


 今日も今日とて森林浴へと出かけた我々一行から、2人して離れた。


「カレー作る時には戻る」

「お、おっけー……」


 古森は少ししおらしい態度を取っていた。悪いものでも食べたのだろうか。変な場面にでも遭遇したのだろうか。


「ってなわけで、続きを話すか?」


 のぼせたのは事実だ。ボリューム満天の過去話は体力を奪うに十分だった。しかしそれだけが理由ではない。まだ少し、聞き足りないし、話し足りないだろう。


「あ、ああ……うん」


 そうして新倉は、いきなり衝撃的なことを口走った。


「誰かを好きになるって、どうすればいいのかな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ