延長戦が始まる③
それから新倉は、とてもたくさんの話をしてくれた。その殆どは、俺の知らないことばかりだった。
実は新倉は、養護施設出身だったという。うちも父方の祖父母が養護施設で出会っているから、少し親近感を持った。そして古村さんは、あの有名な鷹翅の分家の子だったらしい。既にもう世界観が2次元だが、俺は突っ込まずに聞いていた。
最初は新倉が古村さんに惹かれたらしい。そしてピアノが養護施設に届いたことをきっかけに、ピアノで古村さんを魅力できないかと考えたらしい。モーツァルトになりたかったと彼は表現した。大層な話だと思ったが、まあ小学生の時の話だしとスルーした。
しかし古村さんは振り向かず、むしろ攻撃を加えられてしまったらしい。ピアノも撤去され、2人は疎遠になってしまった。うんうん、ここまでは普通の恋愛話だ。問題はここからである。
中学3年生の冬、施設から出て一人暮らしをはじめた新倉の目の前に、家から飛び出てきた古村さんの姿があった。その理由については、彼は語らなかった。しかしどうやら後継者争い的なサムシングが行われたらしい。中世ヨーロッパじゃねえんだぞ!?
そして2人は、歪な同居生活を始めてしまったのだという。1人は家に帰れない、1人は帰る家がない。ならばと同じ部屋に住み始めるのは妥当な流れである。少し下世話な話もしたくなったが、弄っていい流れでも無かったのでやめた。
そして、今日に至るのである。新倉からしたら、ずっと複雑だったわけだ。初恋の人と一緒に住み始めたのだから、困るのもわかる気がする。しかし、だ。告白をしたのは新倉の方じゃなく、古村さんの方だ。ならすんなりと、受け入れるのではないか?それとも新倉は、別の奴が好きなのだろうか?
そんなことを聞きたかったのだが……
「すまんな古森、俺と新倉はのぼせたから午前中車で寝てるわ」
今日も今日とて森林浴へと出かけた我々一行から、2人して離れた。
「カレー作る時には戻る」
「お、おっけー……」
古森は少ししおらしい態度を取っていた。悪いものでも食べたのだろうか。変な場面にでも遭遇したのだろうか。
「ってなわけで、続きを話すか?」
のぼせたのは事実だ。ボリューム満天の過去話は体力を奪うに十分だった。しかしそれだけが理由ではない。まだ少し、聞き足りないし、話し足りないだろう。
「あ、ああ……うん」
そうして新倉は、いきなり衝撃的なことを口走った。
「誰かを好きになるって、どうすればいいのかな」




