延長戦が始まる②
露天風呂からは朝焼けの波打ち際がコントラストを作っている姿が視認できた。なかなか幻想的だなと思った。これだけでも朝にここへ来た意味があったのではないだろうか。
なんて本当は、新倉の話を聞きに来たのだけれど。2人並んで入る浴槽は、今日よりも熱く感じた。話し始めるのを待って、俺はふうううっと息を吐いた。
「本当はさ、新河だけじゃなくて遠坂にも伝えたいことなんだけどさ」
「うん」
「伝えなきゃ……いけないんだけどさ」
「うん」
「流石に今のあいつに伝える勇気が湧いてこなかったから、お前だけに言うな」
やたらと勿体ぶるな。こんな小出しにするやつだっけか?俺は訝しげに思っていたが表立って文句は言わなかった。もしもこの後新倉から発した言葉が驚くべきものじゃなかったなら、後でそう突っ込んでいたかもしれない。
「別に何でも?驚かないって……」
「昨日の肝試し中、古村乃愛に告白された」
……………………え!?!?!?…………………………
「どうした!!すんごい固まってたぞ?」
そりゃ塊もするだろう!!!俺はそう叫びたくなった。いきなり何を言い出したのだこいつは!!生徒会長で水泳部のエースで容姿端麗でみんなの人気者と、お世辞にもクラスの中心にはいなくて部活もしないでクラスの空気として暮らしている彼が!?!?しかも告白は、人気者からときた。
しかし……思い返してみると新河にも思い当たる節がなかったわけではない。2人はどこか似ている。言葉で表現できない、最も奥の奥の奥の根源的なところで似ていると感じる場面はあった。でもそれが……
「とりあえず言いたいことは山ほどあるけど……」
「うん」
「まずはおめでとうだな……」
「……ありがとう」
まるでコントのような間でやりとりをしてしまった。身体が芯から熱される感覚、これは風呂のせい?それともこの話のせい?
「でもそんなの、恋愛相談するまでもねえじゃん。普通こう言うのって告白する前とかその辺りのタイミングでやるもんだろ。もう告白されたんならOKして終わりじゃ……」
「……」
「もしかして、断ろうと思っているのか?」
恐ろしい話だ。客観的にみると、学校の人気者がその辺の空気男に告白して、しかも空気男が振るのだから。罵詈雑言が届いてきそうな愚行である。何故!?と誰もが詰問するだろう。
しかし、俺はさすがに察した。2人には何かがある。それを聞かなければ、相談に対して回答できやしない。
「なあ、新倉。昔、会長と何があったんだ?」
新倉のつぶらな瞳を見て、
「あっ、言いたくないことは言わなくて良いから」
と追加するのも忘れなかった。




