延長戦が始まる①
「新河に恋愛相談してもなあ」
俺は常にこう言われ続けてきた。新河誠は恋愛に疎い、と言うわけではない。童貞じゃないし彼女だってちゃんといる。いやその彼女がこんなにも長い間付き合っているからこそ、こんなことを聞かれるのだろう。
それについて特に文句を言うつもりはない。他人が自分についてどう思うかなんて、こちらで決めていいことではない。する気がないならしなきゃいいし、自分でもそんなのお断りだ。
でもこれだけは思う。
「幸せな奴にはこの気持ちなんてわかんないだろうしな」
忘れないで欲しいと。側にいるからと言って幸せなわけではないし、全てうまくいっているわけではない。むしろ側にいる方が、付き合う前より何倍も大変になっている。人付き合いとはそんなもんだ。一度持った関係はどんな歪な形にも変化する。その変わり方がダメに進まないよう、2人で育まなければならない。
何で説教くさいことなんて言えなくて、そうだねって言って終わるんだけど。
あまり彼女のことは話さないようにしていた。それは正解だと思っている。俺の彼女は普通ではないから、明日のはこの生活が終わってしまわないかいつも不安になる。だから言わないことにした。馴れ初めと表面をなぞった会話だけをして、後はなにも答えないようにしてきた。
多分自分は同情されるのが苦手で、自分のことを話すのが苦手なのだ。彼女のことも話せなくなるほどに、自分の苦労を見せたがらないのだ。
そんな自分に相談があるのだと言う。たまたま仲が良くなった、同じクラスの男の子。
「なあ、新河」
朝風呂に出かけようと朝4時に起きていた俺は、同じくたまたま起きていたのだろう新倉とバッチリ遭遇した。中肉中背普通の髪型、特に何の変哲も特徴もない彼だからこそ、俺は仲良くなれたのだ。
「どうしたんだ?日当でも欲しいのか?……」
「恋愛相談に乗って欲しくてさ、一緒にお風呂入らね?」
いきなりの懇願に俺はたじろいだ。それは、このクラスで最も恋愛から縁遠い男の告白だった。
無論答えは決まっていた。
「参考にならねえぞ?」
「いや、参考に聞くんだけど……」
この返しが既に彼らしかった。




