古森采花は眠れない
時刻は夜中の3時を指していた。みんな寝静まってしまった。こういう時はオールするのが流儀だろうという文句は、まあ当然のように吐き出したい。しかし私が言いたいのはそれだけではない。隣で静かに寝息を立てるこの人に、30分でも1時間でも夏休み中でも詰問し続けたい。そう思えば思うほどに薄目で睨みつけたくなった。
誰のことかって?そりゃ1人しかいないだろう。そう、古村乃愛のことだ。
その時、私は草むらの茂みに隠れていた。後数歩歩いたら怖がらせてやろうと、音をかき鳴らす準備をしていた。肝試しの怖がらせる側なんて、なかなか出来ることじゃない。さてどんな顔をするのか、それによって距離が縮んだりしないかな?そんなことを思いつつ、私は2人の登場を待っていた。さあこい!さあこいと……
いやまさか、こんな展開あるとは思ってもみなかった。乃愛ちゃんが家を出て行く宣言をして、それをにーくらが引き留めなくて、最終的に乃愛ちゃんが告白して……いやいやいやいや、私は一体どんな顔すれば良いの??折角草むら揺らしたり水溜りに石を落とす準備をしてたのに、全部吹っ飛んだっての!!!
そもそもあの子は一体どこに住むつもりなのだろうか。まだ古村家では半失踪状態で、家に帰るわけにもいかないだろう。だからって女の子1人身元保証人もいない状態で家を貸してくれる場所なんてノドグロ荘以外ないだろう。野宿?ネカフェ生活?そうなるなら私が手を差し伸べたいくらいだ。
しかもそれから、肝試しが終わった後も、彼女は平気な顔をして話し続けていた。まるで何も進展がなかったかのような、そんな顔。その後のピロートークも、ずっと煙に巻いていた。好きな人なんていないとか、嘘ばっかりついて。
古森采花は考えた。どうすれば2人の力になれるか思考を巡らせた。でも結論は出てこなかった。というか、幾ら他人のパーソナルスペースにダイブすることが多い私でも、色恋沙汰を囃し立てるほど無配慮ではない。2人の過去を知っていれば尚更である。
いやでもなあ……でもなあ……
ふと、乃愛ちゃんが寝返りを打った。それにびっくりして、私はつい身体をそっちへ向けてしまった。びっくりした。もしかして起きてたりとか……しないよね?
「…………ゆ……ち」
何か寝言を言っているようだ。静かに彼女の目を見ていると、その目から一粒の涙がこぼれ落ちた。
「……ご……めん……友……一……」
ほらやっぱり、苦しんでいるじゃないか。私は彼女の顔を自分の胸にだけしまって、夢で泣く彼女にそっとタオルケットをかけたのであった。




