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彼女は勇気を振り絞る④

 それからのことを、私はよく覚えていない。


 お互い見つめあって、謎の会釈をした。聞こえないふりなのだろうか。それでも構わなかった。もう全ては手遅れなのだから。


 その後お化けが出てきたような気がする。なんか私達よりテンパってたけど、白衣を着て出て行けぇ……出て行けぇ……と言っていた。私達は怖がった。全力で怖がった。早く先程までのやりとりを忘れたかったのだ。


 神社に行ってお参りをして、そのまま帰っていく。その間、私と友一はずっと下らない話をしていた。そろそろ海にはクラゲが蔓延する頃だとか、秋になると稲穂が垂れてきて風情が出るとか、そんな誰も興味のない話。


 一度沈黙してしまうと、あの告白の答えが返ってきそうだった。そしてその答えは、私の望み通りではないことだって、私は重々理解していた。


 あの時引き留めなかった時点で、この結末は予想していた。だから悔いはない。今日に悔いはない。あるとしたらこれまでの大きすぎる罪についてだ。


 肝試しのスタート地点に帰ってきた瞬間、示し合わせたかのように2人は離れた。友一は遠坂(えんさか)の近くによっていき、私は彼らから1番遠いところにいたちかちゃんの隣を陣取った。気付かれないように、さっと距離をとって。


 第二陣、第三陣と次々とスタートしていく。その時何をしていたのかも、何を話していたのかも覚えていない、とても空虚な日だったのだろう。とりあえず盛り上がっていたことしか覚えていなかった。


 心には後悔が募っていた。なんでこの人をよりにもよって好きになってしまったのだろう。なんでこの人を今になって離したくないと思ってしまったのだろう。


 結ばれるわけがないなんてわかっていたはずなのに。それでも心は求めてしまう。今の甘く緩い幸せを許容できなくなる。Neither(どっちつかず)な関係なんて、全人類誰1人として望んでいない。本当にその人が好きなら、その人にとっての1番になりたい。


 でもそうなれるのは、本当に幸せな一握り。私はそれになれなかったのだ。それだけだ。


 肝試しから帰って、私は2度目のお風呂に入った。今度は公衆浴場じゃなくて、部屋に備えられたシャワー室でだった。先程までのやり取りを洗い流したくて、何度も何度も心臓に石鹸を擦り付けていた。


 ボーッとしていると出てきてしまう、あの時の友一の顔を忘れたくて、でもそれはシャンプー如きでは消えてくれなかった。そのまま私は、グダグダと話す女子達の輪にも入らず就寝したのだった。あと頼れるものは時間が流してくれることだけだったのだ。

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