4月14日その⑤
その大手回転寿司チェーン店は、食べ終わったら皿を流しに滑り落としていくのだが、10皿毎におもちゃのもらえるルーレットが始まる。因みに10皿目は何気なく俺が入れて外れた。そして、俺が皿を流し入れたことで19カウントになった。次が最後の皿だ。
「乃愛、いつまで悩んでんの?」
俺は肘をつきながら嘲る視線を彼女に送った。
「え、ええやん別に!!というか友一の食べ方がおかしいんや。レーンに流れているもん適当にパッパッと取って!あんた、マグロもサーモンも食べとらんやろ!?」
「脂の多い食べ物は嫌い」
「じじいか!!」
そう言いつつじーっと注文を考える乃愛。いくらにサーモン、赤身にはまち。子供のような注文だなと思ったのは内緒だ。
「あーもう決めきれん!!友一、決めてくれへ……」
「いかか〆さば」
「はやっ!!即答しとる!!しかもチョイスはじじくさ!!」
「良いだろ別に。ほらもう2時間くらいここにいるだろ。そろそろ出ていかないとここ9時には閉まるんだし」
そうだ。俺達はここで色々と話をし過ぎた。竹川が家を出て10分くらいノーパンで歩いてしまい急いで家に取りに帰った話とか、古森がスタバでチョコフラペチーノぶちまけた話とか、近藤が最近ジャズを聴きながら勉強していることとか……あれ?話しているの、大体乃愛じゃないか?まあ俺は比較的寡黙だから、そうなるのも自明かもしれないが。
「…んじゃ、えんがわ!」
ポチッと注文しようとした瞬間に、えんがわが流れてきた。
「あっこにあるぞ、えんがわ」
ぽけっとする乃愛。そして自然な動きでそれを取る俺。乃愛の前にそれを差し出すと、ちょっとむすっとした顔をしていた。
「何がご不満ですかな?」
「ほんまあんたって、ロマンないな」
「回転寿司屋にロマン求めんなよ」
「いや、ここは最後の注文をするという踏ん切りが大事な要素な訳やん。それを無造作にこうやって置かれるのは、うん、どうかと思うで、うん…」
そんなことを言いつつ、乃愛はもぐもぐとえんがわを食べていた。
「コリコリしてる」
「してるな」
「脂味薄い」
「そうだな」
乃愛はコリコリ言わすことなく上品に飲み込んだ。
「友一はこういうのが好きやねんな」
「まあ、な」
「私にはまだ早い世界やったわ」
そう言いつつしっかりと2つ目も食べていた。別に残すというのなら食べたのに。
「そりゃ人の好みは千差万別だからな。俺からしたら脂ギットギトのサーモンの良さがわからん」
そして空っぽになった皿を流しに滑り落とそうとすると、鬼気迫る表情で乃愛が俺の手を掴んだ。
「それは!!それは許さん!!何考えとう!?!?」
「いやいや、食べ終わったから捨てようとした……」
「なんであんた1番楽しい所持ってこうとするんや!!」
乃愛はまだ口の中にえんがわが入っている状態で、俺から皿を奪い取った。そしてゆっくり飲み込むと、唇についたご飯粒を拭った。
「いくで!!こい!!」
ガチャコンと音を立てて、20皿目が投入された。そしてそれとともに、間の抜けたファンファーレが鳴り響いたのであった。




