初日夜の部その⑤
引いた番号が1だったから、最初に向かうのは俺たちになった。古森と新河が準備をし終わった段階で、我々の道中はスタートした。こういうのは少しドキドキして、夜の田舎道を堪能するものなのかもしれない。しかし隣が彼女だから、安心感しかなかった。
夜道を歩いたこともあった。陽の昇っていない街を疾走したこともあった。懐かしい思い出として格納されていた。それなのに、彼女はまるでいつもとは違うかのような振る舞いをしていた。
「夜道を……歩くって怖いね」
目の前に広がっていたのは田舎道。街灯の間隔が広い道路から、草木の生い茂る畦道をいく。その先に階段を50段登り、目的の神社があるのだ。
「そうか?」
「ほら、暗い。真っ暗だよ!!」
「まあ明かりが少ないからなあ」
「もしも行方わかんなくなったら、絶対見つからなさそうだよね」
「確かにな。離れないように歩くんだぞ」
俺はそういいつつ畦道へと入っていった。カエルの鳴き声が煩く響いていた。セミ以上に煩くなるなんてと思うくらいの大合唱だ。
ふと足を止めた。空を見上げたかったのだ。この場所この角度なら、恐らく綺麗なはずだ。香澄の空から見た方が、地元よりもはっきり見えた。
そこは本来、恐怖スポットなのだろう。街灯の明かりが消え、隘路を2人で渡る必要があった。怯えたり震えたり多少なりともするところなのだろう。しかし、俺は違っていた。
「星、めっちゃ綺麗」
俺は感動した声でそう問いかけた。まるで流星群のように星達が空に点在していた。心底綺麗だと思った。
「ねぇ、友一」
徐に、乃愛が尋ねた。
「昔、一緒に帰ったこと覚えてる?」
恐らくあの日のことだろう。乃愛が初めて家に来たときのあの日。
「公園からの?」
「そうそう。あのときわたしはとっても参っててさ。もう藁にもすがる思いだったわけだ。まさか入れてくれるわけないだろうって思ってた」
「そうなんだ」
「だってさ、私はもう昔から君のそばにいる権利なんてなくしているのに」
権利ってなんなんだろう。そんなものがないのなら、自らで作り出したらいいだけじゃないか。でも多分、そういうことではない。
「そして一緒に生活してみて思ったんだ。君が本当に求めているのは、私だけど私じゃないって」
言いたいことはここなのだ。俺は徐々に星から乃愛へと視線を合わせていった。
「友一、もしかしたらおかしいって思うかもしれないけど、少しだけお願いしたいことがあるんだ」
多分彼女は、どこがでこの日が来ることを選択していたのだろう。この日を迎えるのをいつにするのか、ずっと図っていたのだろう。そして今、その時が来たのだ。
「私ね、10月から……あの部屋から出ていくよ」




