初日夜の部その④
月明かりを凝視すると、人間なんとなく気分が切り替えられる生き物である。いや今回は流石に蟠りとして沈殿していたが、それでもこれから始まるレクリエーションで場の雰囲気を壊さない程度には回復していた。
「肝試しだってさ、新倉」
結局同じ部屋になった新河がそう声をかけつつ、マジックハンドを手に持っていた。
「何それ」
「肝試しで使えるかなあって。茂みに隠れて襲ったり……」
「なんでお前はナチュラルに仕掛け側だと思ってんだよ」
新河はえーっとぶーたれつつ鞄の整理を終えたようだった。肝試しというものを、俺はやったことがない。夜の道を歩くとのことだがどれほど怖いものなのか。
「でもこの辺ってガチで田舎だからさ。遭難したら1日は帰ってこれねえよな」
「確かに。街灯ほとんどないしね」
その辺は田舎町ならではということなのだろう。肝試しにはぴったりなのかもしれない。
「新倉荷物の準備終わったー?」
「あーうん完了!玄関行こっか」
そうして2人で玄関まで向かった。
「そういや新河って肝試ししたことあんの?」
「あんまりねえなあ。子供会でやったことあるくらい?新倉は?」
「全くない」
「どんなんになるんだろうな」
「なー」
楽しみが止まらないというよりは、未知のものに触れる戸惑いのような感情。そうした心の機微は、新河も俺も同じだなと思った。
玄関に着くと、もうみんな揃っていた。外は思ったより暗かった。星がよく見えるかもしれない。
「それじゃあ今から男女1人ずつペアになって、ここから数百メートル離れた古寺に行ってもらいます!!そこでお賽銭を入れてお願いをして、ここに帰ってくる!!単純でしょ?」
竹川の説明はとても簡潔でわかりやすく、だからこそ反論の余地もなかった。
「はーいそれじゃ割り箸割り箸!!こっち男側、こっち女側ね!違うのひかないでよ!!」
右手側が男性、左手側が女性だ。梅野が違う方を取ろうとしていたが、多分彼は竹川が揺らした胸に気を取られていたのだろう。
「引いた番号同じならその人同士がペアですよー!!さあてどうなった!!」
ここでは小細工のようなものはしないのだろうか。行きしなはそんなやりとりがあったような無かったような……まあいいや。
「ちーのど【鬼】って書いてるのは?」
「あーそれ怖がらせる役目の人!何々??梅野引いたの?」
「や、新河が引いたらしい」
「あーあたしもだあ」
どうやら本当に怖がらせる役がいたようだ。それは古森と新河が担当する。
「はーいではまず1番!手を上げて!」
自分の番号は1番だったから、天高く手を伸ばした。その相手だったのは……
「宜しく!新倉くん!」
これも何かの因果なのか、乃愛を引き当てたのだった。




