初日夜の部その①
全く気持ちの整理ができていないまま、夜ご飯前の時間になった。
「BBQの時間だあああああああああああああ」
と叫ぶ古森の声すら、俺の耳には全く響いてこなかった。ダメだ!!塞ぎ込んではいけない。1人がそうした態度をとってしまったら、それは周りに伝染してしまう。幾ら他人への興味が薄い俺でも、自分のせいで場が盛り下がってしまったとなればそれは申し訳ない。
「おー?にーくらテンション上がってなくなーい?」
古森の駄々絡みには、
「そりゃ、脂身の少ない肉なら喜ぶけど、どうせ金持ちなんだから霜降りとかそんなんだろ?要らねえ」
と戯けてみた。流石にここでも金持ちを発揮してはこないだろうと踏んでいたが、
「まあ確かに国産和牛だけどさ」
本当に用意していると思わなかった。これには他のメンバー全員が大喜びである。
「どこ??神戸??松坂??近江??」
「はん!んなわけないでしょ!?!?ここ兵庫県よ兵庫県!!兵庫のお肉に決まってんじゃない!!」
「いや古森神戸は兵庫ぞ?」
遠坂の冷静なツッコミが入った。古森は頬を膨らましつつも、BBQの鉄板と食材を持ってこさせた。
「何を食べるかは自由、火加減も自由、どれだけ食べても良いわよ!!」
そろそろ彼女の口からおーほっほっほという笑い声が聞こえてきそうな程だった。いやお嬢様であることは間違い無いのだけれども。そして彼女の陰口を一緒になって叩こうかと思ったが、既に乃愛はお肉に夢中だった。この食いしん坊が!!日頃粗食しか食わせてなくて申し訳ねえなあ!!
「どう!?!?但馬牛の全部位に、国産黒豚に名古屋コーチン。シャウエッセンもシーフードもこの辺で取れた有機野菜も、焼きおにぎりだってあるわよ!!さあ、好きなだけ焼きなさい!!!」
みんなお腹を空かせていたのだろう。まるで目の前にあるのがフルコースの料理かのようにがっつき始めた。もうちょっとこう、みんなでカレーを作って……とかいうのを想像していたのだが、金持ちの手にかかればこんなものである。
「あー俺サラダきってるな」
多分この中で野菜をメインで食すのは自分くらいだろう。肉に集まる集団を尻目に、俺はひょいっとサラダの籠を持ち上げた。南瓜もナスも良い色をしていて美味しそうだ。
誰からも返事がないので、水洗場を貸してもらい野菜を切り始めた。そしてここで、落ち着かせようと思ったのだ。何をって、自分の思考をだろう。まだまだ、あの衝撃から逃れられていないのだ。
「ゆう……いち……くん?」
突然後ろから声をかけられた。振り向くとそこに立っていたのは、
「変……かな?私がこう呼ぶのって……」
やたらと顔が火照った近藤だった。




