幼馴染との距離感
「乃愛ちゃんってさ、いわゆる幼馴染って感じの人居るの?」
魅音ちゃんはいきなりそう尋ねてきた。湯船に沈んだ彼女の肢体がとても美しかったから、丁度それに見惚れていた時だった。
「幼馴染?」
「ほら、幼稚園から一緒とか、ご近所さんで交流があったとか、そういうの!!乃愛ちゃんって昔の話しないし……どうなのかなって」
まあ話の流れは分からなくもない。魅音ちゃんは衛藤と揉めに揉めて大変なことになったという話は聞いた。その上での質問だろう。それはわかるものの、私は答えに窮してしまった。幼馴染?いるだろうか。
「うーん、あんまり思い当たらないなあ」
「そっかあ。昔からの因縁とか腐れ縁とかなさそうだもんね!中学女子校だし」
あっ……腐れ縁という意味では山ほどあるというか、現在進行形である。ただいま自身のちっぱいを脱却すべくのどかちゃんに教えを請うている古森家の跡取りとか、多分同じ時刻に風呂に入っているであろう彼とか。
「まあ、そうだね……」
私は半分目を逸らしつつ、自分の胸にお湯をかけた。スベスベの白濁湯が気持ちよかった。お風呂に入るなんて何年ぶりだろう。
「いいなあ……私もそんな感じに、サバサバして生きられたらなあ……」
そう言いつつ魅音ちゃんはピアス跡をチラつかせていた。サバサバして生きる、か。私もそういう意味では、過去にがんじがらめとなって今を生きている。少しでも抜け出そうとは思っているものの、状況は芳しくない。
「まあでも、後悔してることとかはあるよ」
「人間関係で?」
「そうそう。もっとうまくやれてたらなあとか。あの時あーしてればなあとか」
「そっかあ。乃愛ちゃんでもあるんだ……」
魅音ちゃんはもう一度大きなため息をついた。どうやら真剣に悩んでいるようだ、というのはよくわかっていたが、想像以上に心痛めているようだ。
私は少し気になって、軽く質問を飛ばしてしまった。
「やっぱりさ、昔好きになった人って忘れられないの……かな?」
脳裏に浮かんでいたのは、いつも一緒に過ごしてきた彼の顔。
「そうだね……忘れられるんだろうね。大人になったら。あの時は若かったとか、色々理由をつけて。仕方ないって割り切っちゃんうんだろうね」
彼も大人なら、もう割り切ってしまったのかもしれない。
「でもさあ……無理だよ。どんなにひどい扱い受けても、好きの感情は消えてくれないんだもん。楽になれるんなら、早く大人になりたい」
悲痛な叫びだった。開放感がなせる言葉だった。私もそれを聞いて、より胸が痛くなった。もしかして、彼もそんな感情を抱いているかもしれない。今の私と、昔の私を繋ぎ合わせてくれているかもしれない。
いやダメだ。これは妄想、私に都合の良い想像だ。
「辛い、よね」
「辛い……本当に辛い……でも、好きなんだ」
震える声で好きという健気な彼女に、私は応えることができずに頭を撫でていたのだった。それはまるで、昔の友一をあやすかのようだった。




