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Neither Nor〜友人にも恋人にもなれない2人の物語〜  作者: 春槻航真
とあるクラスの海色ダイアリー
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初日昼の部その⑥

 おおよそ満足できるほど海で遊んだ後で、俺達は温泉に入っていた。


「なあここやばくね?露天風呂あんじゃん」


 と梅野(ばいの)筆頭に外へと出ていく五人衆。


「アニメとかだとここで隣の女子風呂から声が聞こえたりするんだけどなあ」


「……残念ながらめっちゃ遠いな」


 衛藤と新河(しんかい)がポツリと呟いた。俺はそんな者一切興味はなかったが、確かに女子の露天風呂とは大きく離れていて覗くどころか声すら聞こえなかった。


「あの辺?俺らがさっきまでいたところ」


「そうじゃね?砂の神社の残骸あるし」


 遠坂(えんさか)と俺は前方の景色を堪能しつつ湯に入った。なんとなく察しがついているかもしれないが、温泉もほとんど入ったことがない。一度養護施設の慰安旅行で近くの温泉に入ったくらいで、これも俺にとっては新鮮な感覚だった。


新倉(にいくら)ってさ」


 後ろにいた新河が尋ねてきた。湯が熱いのかわからないが段差に腰掛けた状態で話しかけてきた。


「清廉な仏教徒だったりする?」


 この言葉を聞いて、他の3人は爆笑してしまった。いやいや笑うところではないだろう。


「すんごい質問内容なそれ」


 梅野はそう言って腹を抱えつつ、遠坂の隣にきた。そのついでに衛藤も梅野の隣に座った。


「とりあえずほぼ無宗教だが意図を聞こうか?」

「ほら、新倉って行ったことねえとこ多いし、女子達から明らかにチヤホヤされてんのに顔色一つ変わんねえじゃん?高野山とかで修行したらそうなるんかなあと」


 女子達から、チヤホヤ?何を言ってるんだか。


「確かに、新倉から女子の匂いってしねーな」


 梅野のこの言葉に隣にいた衛藤が何かを堪える顔をしていた。そういや衛藤はかつて武田が俺と乃愛(のあ)が2人で歩いているの見かけたって知ってたな。そりゃそんな顔にもなるか。


「いやそうやつが案外、みたいなこともあるかも」


 遠坂はそう言いつつ僕を睨んだ。彼も乃愛と2人で自転車に乗って神戸まで来た件を思い出していたのだろう。なんとなく神妙な顔をしていた。


「ないないない。単に引きこもってるだけだ」


「そっかあ」


 新河は深く詮索しない。ここでもすっと引いた。


「新倉って休日何してんの?ピアノ弾いてる?」


 質問主は衛藤だった。煙で少し顔が見えなかったが、いつもの性格に似合わぬ素朴な雰囲気は感じ取れた。


「そんなしょっちゅう弾いてねえよ」


 とは答えたが、なんと回答しよう。一瞬迷って、


「バイトしてるかな?」


 娯楽のない男だなとつくづく思いつつそう答えた。その後ひとしきりバイトのことを聞かれた。どこでどんな仕事をしていて、どんな人が働いていて……そんな取り留めのない話をしたつもりだった。それなのに、衛藤の顔が少し怖くなった気がした。働いている場所の名前と人の名前を言っただけなのに、どうしてだろう。


「そ、そっかあ」


 と冷や汗をかく衛藤に、僕は訝しげな視線を送ってしまった。

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