4月14日その④
「そういや今日さ」
乃愛がようやく一皿目の赤身マグロを注文した所で、俺は今日あったことを話し始めた。
「遠坂が生徒会について話してた」
「そやんな!そやんな!なんかそんな話ししとるなって思てた」
めちゃくちゃチラチラ見てたからな。こっちが気づくくらい見るって、それもう目立ち過ぎだと思うのだが。クラスでそろそろ噂されているのではないだろうか。いやそれは流石に自意識過剰が過ぎるか。
「で?なんて言ってたん?」
「副会長に立候補するんだって」
「あ、そうなんや!会長ちゃうねんなあ」
「結局どうすんの?乃愛」
俺は納豆を食べつつ少し上目遣いな顔をしつつ尋ねた。安っぽい味なんだろうがここ1ヶ月の自分たちからしたらこれすら高級寿司に思えた。
「どうするって、立候補するかどうか?」
「うん」
少しビビりながらうんと言った。先週の二の舞だけは嫌だ。
「やろっかなあ」
意外だった。てっきりやらないというか、まだ決めていないと言うのだと思っていたからだ。
「どうしたん友一驚いて。納豆零しそうやで」
「え?ああ、ごめん」
「零さんとってやーもったいないで」
そう言いつつ乃愛は新しいネタを頼むべくまた注文票を眺めていた。
「そんなに続けるん意外やったん?」
「もうちょい悩むと思ってた」
「いやさ、やっぱり最初に決めたことはそのまま突っ走っていくべきやなって思ってん」
そして炙りサーモンを注文する乃愛。
「ほら、今日のお寿司みたいにさ」
「いやそれはよくわからんけど」
「えー自分で言ったやんかー!初志貫徹してお寿司10皿頼んだらって」
注文用の寿司レールが走ってきた。1回目はうまく取れなかったカバーを、今回は難なくとっていた。
「やっぱりさ、最初っから決めてたことをそのままやるのって、それが正しいかは分からんけど、後悔は少ない生き方なんかなって思ってんな」
「お前お寿司でこれからの学校生活の振る舞い決めんのかよ」
「ちゃうよ、大事なのはお寿司やのうてあんたの言葉やで」
そして幸せそうにサーモンを頬張る。俺はレーンからえんがわを取った。
「ふーん、そっか」
「何?今結構照れること言った気がするねんけど」
こう言うのは照れたら負けなのだ。ありえないんだからな。俺は平静な顔をしつつ醤油をかけていた。
「まあ、一本筋を通した生き方は割り切ることできて良いよな」
「お、同意してくれる?」
「その点はな。だから初志貫徹して俺は生徒会に入らない」
そしてえんがわのコリコリ感を楽しんでいたら、彼女は少し声のトーンを落としてこう言った。
「生徒会は、今回で最後にするね。10月の体育祭まで」
それは別に、なんのおかしな点のない話だった。なぜ声を低くしたのか、俺には分からなかった。




