古森采花の容喙
多分この場において、ううん、藤が丘高校において、私が唯一知っている。
古村乃愛の生い立ちについても
新倉友一の抱えている悩みについても
2人がこれまで、捻くりに捻くれた関係を続けてきたことも
全部知っているのは、私だけだ。
少なくとも、誰かに話してなければのことだが、そんな吹聴するような内容でもない。
つまり、1番客観的に2人を見てきたのはこの私だ。
だからこそ断言したいことがある。王女様は下野して音楽家と結婚すべきだと。
ありがちな物語だと、言いたければ言えばいい。
身分を超えた恋?まさか、現代にそんなものは無くていい。
好きな人に好きと言える。
そんな当たり前の権利さえ、彼ら彼女らには残されていないのだ。本当に悲劇だ。目も当てられないくらいだ。
私は、正直安心した。
古村乃愛が新倉友一の家で生活していた事実を初めて聞いたとき、心の底から安堵したのだ。
古村乃愛には当主としての才覚があった。今でもその能力は生徒会長としての働きに活かされている。
でも、出来ることならこんなところで使って欲しい能力ではなかった。もっとお国のためとか、地域のためとか、そんな一つの家に収まって欲しくなかった。
鳥籠から泣くしかできない鷹翅に、彼女の凛とした表情は映えない。
そういうのは、同じく鳥籠で膝を抱えている私みたいな人間で十分なのだ。
だから嬉しかったのに……のに……
どうしていつまで経っても関係が進んでないんですかねえ!る!?!?!?!?!?!?
古森采花は怒っていた。奥手とかいう次元を超えた2人のジリジリとした関係に苛々していた。にーくらがピアノを弾かないのはまだいい。そんなことより、一緒に暮らしていてなんでまだ付き合ってねえんだよ!!もう1年半になろうとしてんだぞ!?
高校生なんて席が隣だったとかたまたま話しかけてくれたとかそんなんでも好きになっちゃう脳みそ錯覚と勘違いで埋め尽くされた生き物なんだぞ!?女子も女子でちょっと背が高かったりスポーツしてたりしたらワーワーキャーキャー囃し立てる脳みそ妄想と恋話で埋め尽くされたクリーチャーなんだぞ!?
そんな高校生男女が!どうして!同じ部屋で寝泊りしてるのに!くっついていない!!!!!全く人がどれだけ苦心して鷹翅への報告内容改竄していると思ってるんだ!?まあ私じゃ無くて父の仕事だけど。
なのでこの旅行で、古森采花はおせっかいをだすことにした。もっともっと、2人が仲良くなるように。そのために……
目下障害になるのは……
「ほーらちーかちゃん!!」
近藤憐だ。
こうして、乃愛には彼女の謎アシストが追加されることになったのだった。




