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Neither Nor〜友人にも恋人にもなれない2人の物語〜  作者: 春槻航真
とあるクラスの海色ダイアリー
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初日昼の部その⑤

 ひとしきり海で遊んだ後で、俺は砂浜に戻ってきた。砂浜では1人黙々と砂遊びをしている影があった。こんなに暑いのに上着を着たまま製作を行っていたその名は、新河(しんかい)誠。一体何を作っているのだろう。


 近づいてみると柱のようなものができていた。膝くらいの高さがあった。結構な大物だ。


「何作ってんだ?」


 俺はぶっきらぼうに尋ねたが、新河も新河でぶっきらぼうに返してきた。


「鳥居」


「鳥居??」


「新倉ってさ、白髭の大鳥居って見たことある?」


「見たことはないけど聞いたことはあるぞ」


「マジか」


「あれだろ?琵琶湖にある、水面に浮かぶ鳥居的なやつ」


 何故行ったことがないのにマイナーな滋賀の鳥居など知っていたのか。それは真琴が家族旅行で琵琶湖に行ってきたと自慢してきたからだ。クルーズに乗ったり博物館に行ったりして楽しく過ごし、そしてお土産で美味しい和菓子をくれた。あの時はまだ施設にいたから年少者から順に分け合って食べたが、どれも美味しかった記憶がある。


「ってか厳島神社じゃねえんだな」


「神社なんて精巧なもの作れるわけねえだろ。そこまで俺の手先は器用じゃねえよ」


 そう言いつつ黙々と鳥居の原型を作っていく新河。なるほど、こういうのも海の遊び方なのか。知らなかったから、ちょっとやってみよう。


「んじゃ俺が厳島神社作ろうかな」


 そう言って隣で砂を掘り始めた。


「行ったことあんの?」


「ないけど資料集で見た」


「小学校の修学旅行とかは?この辺だと定番だろ?」


「そこまでいかなかったわ。離島行って終わり」


 まあ俺はいってねえけどな。しおりにはそう書いてあったのだから間違いない。


「それでいけんの?新倉(にいくら)ってそんなに手先器用だっけ?」


「わかんねえけどやってみる」


 そういって黙々と砂を固め始めた。




 数十分後、


「君達何してんの?」


 そう声をかけてきたのは武田だった。オーソドックスなローライズ水着を着ていて、体の細さが一層際立っていた。


「鳥居作ってる」


「神社作ってる」


「……普通、そういうのは城とか作るもんじゃ……」


 そうなのか。知らなかった。波はどんどんと近づいてきていた。満潮へ向かっているのだろう。


「ってかどっちもリアルだねえ。写真撮っていい?」


 そういって写真を撮る武田。耳によくつけているピアスは外していた。あらかた写真を撮った後で、彼女は呟くように言った。


「私もこんな風になれたらなあ」


 こんな風とは、どんな風だろう。このクソ暑い中、必死に砂遊びをしている我々のことだろうか。意味深な言葉を言い残して、武田は持ってきた写真を置きに帰った。その瞬間だった。


「あーごめーんそっちいったー!」


 と声が聞こえた瞬間に、神社の上にボールがぐしゃっ!


「あっ……」


 声の主である衛藤すら、少し引き気味だった。数十分かけて作ってきた神社は、一瞬で見るも無残な形になってしまった。


「ごめんな、新倉」


 そう謝る彼に向けて、俺は絞り出すように言った。


「いいよいいよ、これが本当の諸行無常だ」


 なお新河の鳥居はその後満潮になって流されたことも記載しておこう。これもまた、諸行無常だ。

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