初日昼の部その④
「ゆーいちー!ゆーいちー!」
初めて入った海は冷たくて、思わず砂浜へ舞い戻りたくなった。そんな新鮮な自分を尻目に、乃愛は声をかけてきた。因みに一緒のタイミングで海に入った近藤は、古森の強い希望によりビーチボールで遊んでいた。
「今からあそこの岩場まで泳いで競争しよー」
「ふざけんな」
乃愛は黄色のホルターネックビキニを身につけていたが、僕は目を逸らしていたので褒めなかった。
「なんで!?なんで!?」
「お前自分の部活言ってみろよ」
「生徒会?」
「それ部活じゃねーだろ!?水泳部だろ水泳部」
「でも男と女やで?」
「帰宅部の男と運動部の女の間違いだろ?」
「や、そう聞くと案外いけそうやない?フェアな感じがする」
「ガンジーがぶん殴るくらいアンフェアだろ」
そんないつものやりとりをしていたら、ふっと視線が上がってしまった。すらっと伸びた長い脚、自然に入ったくびれ、程よく成長した胸、ポニーテールでまとめた髪の毛。おかしいな、いつも隣で寝ている乃愛なのに、水着効果で別人に思えた。
「はっはーん!?私の水着姿に見惚れてたなー!?」
乃愛はしたり顔でこちらを見てきた。なのに俺は、何一つ動揺しなかった。隠そうとせずに、素直に呟いた。
「うん……そうだけど?」
他意があったわけではない。本当に、心の底から、美しいものに出会ってしまったの感じた。それはもしかしたら、水着の女性などスクール水着以外知らない自分の経験不足が露呈しただけかもしれない。でもその時は、そう呟いて下を向いてしまった。
「そ、そっかあ……」
そしたら乃愛もつられてそっぽを向いた。お互い照れてしまって、海風が背中を押してきた。先程まで冷たいと思っていた足元が、急に熱を帯びてきたような気がした。これがあれだろうか、クレイジーフォーユーの季節というやつだろうか。
「そういやあさ、ゆーいち」
まるでこのビーチが、誰もいない場所かのように静かになった気がした。
「あそこの岩場の近くさあ、キスが泳いでるんやて」
「キス?」
「も、もちろん魚のあれやで」
乃愛は焦って関西弁が出てしまった。手をブンブン振って、それが終わったら背中に持ってきていじいじと弄って、こちらを見ては上目遣いで提案してきた。
「だからさ、競争とかなしに、2人で……」
「かいちょー!!!!!!!!!ビーチボールで遊びましょー!!!!!!!!!!」
そんな2人の甘酸っぱい雰囲気を、竹川がリボンビキニでは収まらないほどの爆乳を揺らしつつ壊してきた。そして乃愛の腕を引っ張って行ってしまった。振り向きざまにめちゃくちゃ睨まれた気がするが、俺なんか悪いことしましたっけ?という気分になった。




