初日朝の部その⑦
途中のサービスエリアで車の席替えが行われることとなった。まあこちらでは武田が泣いて俺があらぬ疑いをかけられたらしいし、向こうは向こうで竹川が遠坂に原因不明の公開説教をして大変だったらしい。どうしてそんなことになったのか、彼らは今どんな気持ちなのか、わからないまま俺はお土産コーナーにいた。
「どうしたん?なんか探しとるん?」
乃愛がそう声をかけてきたが、まるで聞こえてこなかった。何故か?少し考えればわかるだろう。人生1度も旅行に行ったことがない俺が、サービスエリアに降り立ったのだぞ?
大量におかれたお土産品。一風変わったものまで取り揃えた少し値段の高いコンビニ。沢山のお店が軒を連ねるフードコート。何の土産かわからないお菓子。粗雑に置かれたファーストフードやコーヒーを提供する自動販売機。野外で販売する串や焼き鳥屋の数々……
「テーマパークに来たみたいだぜ、テンション上がるなあ」
「真顔で何言っとんの!?」
乃愛の突っ込みは正常なものだが、俺のこの反応もまた、正常なものだと認めて欲しかった。
「まあ確かにあんたはこういうとこ来たこと無いやろうけどな」
「乃愛はきたことあるのか?」
「ってか高速乗って旅行したことある人ならみんなあると思うで」
そうかそうなのか……また一つ、自分の遅れているところを自覚することになった。貧乏は余暇に関する知識を撃滅させる。レジャーなど余暇の王様みたいな存在だ。その周辺知識が浅いのも納得できるだろう。
「そうかあ……」
「いやそうかあやなくて、席替えのくじ引くからってみんな呼んどるで」
「え?マジかすぐいく」
そう言って2人で駐車場まで歩き始めた。途中おにぎり巻きなるめちゃくちゃ美味しそうなお店を見つけたがスルーすることにした。まだ時刻は朝の9時だ。昼には早い。
「そういやそっちでさ」
「うん」
「私のことなんか言っとらんかった?」
乃愛は黒髪をたなびかせつつこちらを向いて尋ねた。まだ集合場所からは離れていたから、俺は正直に答えた。
「特に確信的なことはなにも。ただ、新河が俺と乃愛の空気が似てるって言い出したくらい」
「なるほど了解」
「そっちはなんかあったのか?」
「うーん、まあね??のどかちゃんが結構気を使っとってねえ」
「優しいやつ?」
「いや、過保護なやつ。あの男はー?とか、この男はー?とか。会長は私のだー!とか」
やりかねんな。というか竹川、徐々に裏の顔を俺らにさらけつつないか!?彼女も少し気を許してきているのだろう。厄介なのは変わらんが。
「私は君のものなのにね」
小声で、本当に小声で、露店の客引きにかき消されそうなくらいの声量で、彼女はそう言った。俺のもの?そんな訳がなかろうて。そう思ったとしても、目を逸らしたとしても、心は少し揺れてしまう。
「なーんて、冗談」
冗談と言いつつ、乃愛は目を逸らしていた。斜め下のアスファルトを見て、顔を真っ赤にしていた。俺も同じく、少し下を見て歩いた。
「あっ、きたきたー!!」
という古森の声が響くまでの数秒間、2人の間には何とも言えない空気が漂っていた。




