4月14日その③
我が家から自転車で5分、国道沿いに日本で有数の回転寿司屋が存立している。我がバイト先からもそこまで離れていない。そこに自転車を止めて、のんびり乃愛を待っていた。
「ういーお疲れー!」
キュッとブレーキをかけて、さっと自転車を降りる乃愛。まだ鍵をかけていないにも関わらず、俺は階段を登り始めていた。
「おつかれさん」
「お金下ろしとう?」
てけてけと小走りしながら階段を登ってきた。少しだけ後ろをそっと歩いていた。いつもの紺色スカートに白シャツ、ピンク色のカーディガンが今日は高校生らしさを存分に醸し出していた。
「下ろしてきた。念のため3000円ほど」
「お、じゃあ1500円まではいけるゆーこと…」
「調子に乗るな。1080円まで」
ぷーと頬を膨らます乃愛。調子よく階段を登りきり、ドアを開けた。こういう所で誰かに会うのが神に愛された人々の生き様らしいが、残念ながら店員さんは見たことのない人だった。その人に案内されながら、俺達は席に座った。
「結局何頼むか決めたのか?」
「うーん、決めれへん…いやさ、最近の回転寿司ってずるいと思うねん!!だってさ、こんなファミレスみたいになってメニュー増やされたら何頼むかわけわからんくなるやん」
「まあ確かにうどんやパフェに留まらずスパゲティとか売ってるもんな」
「やろやろ!!」
「まあでも初志貫徹でお寿司10皿食ったら?」
そう言いつつ俺は自然な動きでレーンに流れていた玉子を手に取る。
「あー!そんな簡単に決めとるん?」
「別に流れてきたやつでええかなって。それに俺玉子嫌いじゃないし」
玉子って醤油つけるんだっけ?つけないんだっけ?逡巡迷ってから醤油をかけた。ついで流れてきたいくらにも手を出した。
「あー友一それギルティやで」
「なにが!?」
「まだ食い終わっとらんのに次の皿に手を出すなんて、回転寿司を冒涜しとうよ?」
「まだ一皿も取ってないお前にそれを言われたくない」
俺はそう正論を投げ捨てつつ、玉子を頬張った。少しの甘みがご飯とよくあっていた。そして乃愛は、未だに注文票を見ながら睨めっこを続けていた。
「サーモン……マグロ……はまち……」
乃愛は未だ迷っているようだった。このままでは一向に進まないではないか。
「いくら、食べるか?」
目を輝かせる乃愛。
「いいの?」
「いいよ。別に食べたかったら自分で頼むし」
「いやでも初手からいくらというのはいささか高級感を出しすぎな気が…」
「…もういいから、食べろ」
へーいといいつつ、この日の晩餐が始まったのであった。やはり、乃愛と食べるご飯が1番落ち着く、そんな気がした。




