初日朝の部その⑤
どうやら遠坂と近藤は何か仕込んでいたようだった。打ち合わせをしていたようだった。しかしその魂胆はさっさと砕かれてしまったようだった。
「ねえ、ちかちゃん」
「どうしたの?魅音ちゃん」
「くじ引きの結果でさあ」
「うん」
「しゅんぺーとおんなじになったじゃん」
「うん」
「代わってくれない?」
武田はとても疲れた顔で近藤に訴えていた。周りの人間も横目でそれを見ていた。しゅんぺーだけは遠くの方を見ていた。
「え?」
「さすがに無理。昨日の今日は無理。ガチで無理。せめて朝だけは勘弁して。お願いだから勘弁して」
「えっ……」
そして彼女達のやりとりを、他の8人も遠くで見ていた。
「別に采花でも……」
「采花は欲しい。采花いないと私のメンタルが壊れる。絶対に壊れる。やめて欲しい」
あまりにも冷たい言葉の数々。見た目に反して静かな印象のある魅音がこんなにも言うのだ。いったい彼らに何があったのだろうか。全員してしゅんぺーの方を向いたが、当の本人は梅野と大したことない話をしていた。
「お願いお願いお願いします」
身体を震わしながら訴える武田に、近藤は折れた。
「じ、じゃあ良いけど」
そうしてくじ引き後に変更になった。1号車には武田、古森、俺、新河、梅野。2号車には乃愛、近藤、竹川、遠坂、衞藤。
「それでは出発します!!」
と黒服さんがいう前から、前の席では武田と古森と梅野でいったい昨日何があったのか話し合いが行われていた。俺は特に興味がなかったからそっぽを向いていた。いやまあ気になるっちゃなるが、盗み聞きをしたり話せと強要して聴きたいとは思わなかったのだ。
聞こえてきた音を類推するのも嫌になった。それも結局盗み聞きだ。男女間なんて色々あるものなんだから、無闇矢鱈と詮索するのはよろしくない。
「窓の外がそんなに面白いのか?新倉」
あまりにも反応をしていなかったから、新河が声をかけてきた。
「面白いね。窓からの景色が嫌いな人間なんていない」
「別に絶景でもないのに?」
「自然がある、山がある、電灯があって電柱があって屋根があって街がある。その移り変わりをのんびり見てるだけでも、結構心は落ち着くもんだ」
「新倉ってさ、子供の頃雲とか眺めて過ごしてただろ?」
「星ならよく見てたな。星なら」
「あーめっちゃ似合いそう」
外の景色をぼんやり見るのは好きだ。殆ど旅行に行ったことがないから、それだけで大好きだ。
「新倉ってさ、引っ越したこととかないの?」
ポツリと新河が呟いた。




