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初日朝の部その③

「ではまずここで新倉(にいくら)様に降車頂いて、その後少し走らした後に古村(こむら)様、という順番にいたします。ご承知おき下さい」


 古森(ふるもり)はどうやら、どこまでも俺らのサポートをするつもりらしい。そりゃ、同時に車から降りたら怪しまれることこの上ない。それを見越して、既に黒服は伝えておいたのだろう。


「采花ちゃん、気が利くね」


 乃愛(のあ)はそう評価していたが、俺はまだ首を傾げたくなった。彼女は気が利くのではない。面白い方向へ持っていきたいだけだ。その面白いとは、自分にとって、だ。


「そうだなー」


 だから俺はこんな気の抜けた声で応対した。古森采花を信用してはいけない。良い意味でも悪い意味でも、彼女は欲望でしか動かないのだから。


「それじゃあこの辺で降りますねー」


 俺は眠たい目を擦りつつ車を下ろしてもらった。そして駅の反対側まで歩いて行く。茨田駅はそこそこ大きいから、歩くのに少し時間がかかってしまった。学校がある時には駅から高校までの歩道橋に長蛇の列ができる。しかし時間もあってその日はほとんど人通りがなかった。


 集合場所には既に近藤(ちかふじ)遠坂(えんさか)がいた。近藤は前に一緒に買った服を着ていた。赤色の髪がよく映えていた。一方で遠坂も、清潔感のある紺色のポロシャツを着ていた。


「おつかれー」

「おはよう」


 手を振る2人は、近くで見ると目の下にクマができていた。


「2人とも、もしかして寝てない?」


 そういうと2人とも睨んできた。いや別に睨まなくてもいいのに。というのは無神経だろうか。


「……まあ、私結構そういうタイプだし?遠足前とか寝れなくなること多いし?」

「僕もまあ……そんなタイプだ」


 本当か?と思って突っ込みたくなったが、


「まじ眠い」


 と後ろから新河(しんかい)に声をかけられたので辞めることにした。新河も新河で疲れ切った顔をしていた。


「寝れなかったのか?新河」

「部活と旅行のダブルパンチ。旅行後旅行とか2度とやんないって心に決めた」


 そう言いつつ新河は大あくびをかましていた。遠坂は訝しげに尋ねた。


「因みにいつ帰ってきたのか?」

「昨日の夜」

「まじでー!!ガチでバカじゃん」


 後ろから喧しい声が聞こえてきた。古森である。いつも通り短髪の茶色が触れていて、ひらひらしたワンピースを着ていた。


「古森、しおり送ってくんの遅くね?なんで前日の夜送ってんの?」


 俺はとりあえず苦言を呈した。その瞳の奥で余計なことをするなよと訴えていたが、多分彼女には届いていないだろう。


「え?」


 とここで新河が、絶望的な顔をし始めた。


「しおり?んなの届いてた……」

「おっはよー!!!!!みーんなー!!!!会長だよー!!!!」


 後ろから竹川(ちくかわ)の明るい声が響いた。

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