初日朝の部その②
「あの……お付きの方?」
「はい、今回お二方の旅をエスコートいたします。よろしくお願いします」
「いや、旅って隣町の駅に行くだけやけどな」
出発予定時間を先回り知られていたかのように、まさに家を出ようと思っていた時間ぴったりに黒服がやってきた。古森はまたいらない気を使ったらしい。馬鹿にしているのかと。電車で駅に向かうくらいの金銭的余裕はあるわと。片道180円が払えないほど貧乏ではないと。俺は彼女に詰問したくなった。まあでも、そんなことしても馬耳東風だが。
「それではこちらにお乗りください。段差等はないノンステップワゴンとなっております」
止まっていた黒塗りのどでかい車は、まるでアメリカの砂漠をガタガタ言わしながら走っているような、そんなイメージを存分に醸し出していた。
「もしかして香澄にもこの車で?」
俺は乗り込みつつサングラスの黒スーツに声をかけた。いつも名前を教えてくれないので呼び辛くて仕方がない。
「はいその予定です。ですのでたくさん詰められる大型の車をご用意いたしました」
「広いってか、キャンピングカーみたいやん」
鷹翅の関係者だからか、彼女は流暢に関西弁を話していた。
「実際そう言った用途にも転用できます。後ろのスペースを使ってBBQ!なんてこともできます」
そう言いつつ黒服スーツはエンジンをかけた。朝には似合わない派手な音だ。特にこのアパートには何年も何年も浪人している方がいるから、非常に近所迷惑が心配である。今度本人に聞いてみよう。無論この本人とはとなりに住む男性のことである。
「バーベキューやりたいね!」
乃愛がそうやって笑いかけてきたが、その真意が分からなくて戸惑ってしまった。
「確かに……今回はまあ甘えさせてもらうけど……」
「どうしたん?」
「車内が広いって、全然慣れないな」
俺はそう言って笑った。狭い所に居すぎたみたいだ。するとここで、全力で謝罪し始める者がいた。
「申し訳ございません!!申し訳ございません!!申し訳……」
「いやあの黒服さん?そんな真剣に言ってないので……」
どうやら黒服さんにはキツイしつけがなされているようだ。それを行なったのは鷹翅の人間だろうか。それとも古森だろうか。分からないが彼女ならやりかねないなと思った。
「これが……鷹翅の血か……」
「え?私はこんなんちゃうからな?人脅したりそんなことせんし!」
色々と突っ込みたくなる乃愛の弁護。それをスルーしつつ、
「今日も晴れそうだなあ……」
「いやなんか反応してや!」
2人は集合場所へと向かっていた。




