8月21日その③
「ただいまー」
「おかえりー」
家に着いたら乃愛がのんびりと足を伸ばしていた。背後にはパンパンになった鞄が置かれていた。1泊2日の旅行だからそんなにいらないと思ったのだが……
「飯はちゃぶ台に置いとるで」
「あーありがとう」
テーブルの上に置かれていたのはキムチチャーハンだった。冷え固まったご飯がある時にはよく作っていた。結構好きな料理だ。
「そんなに荷物必要か?」
「別に私の分は私が持つから大丈夫やで」
「いやそういうことじゃなくて……」
「色々持ってきとるで!前付き合ってくれたやん!花火とかバレーボールとか花札とか!いっぱい買いにいったやん」
まさか一緒に買いにいった結果、服とか水着よりも優先して遊ぶ用具を買いに行くとは思わなかった。
「いいけど他の参加者と被らないようにしないとだめだぞ」
「あーまあ、被ったらその時はその時で」
「まあ乃愛のお金で買ったやつだから別にいいっちゃいいが」
「せやろせやろ?それに、修学旅行とかでも使えるし……」
修学旅行という単語が聞こえてきて、2人して黙ってしまった。その本当の意味を、2人は理解していたのだ。
「ち、炒飯どんな感じ?美味しくできとる?」
だからこそ乃愛は話題を避けて、
「で、できてるぞ!いつもおいしいご飯をありがとう」
「やー褒めても何もでよらんよー?」
俺は無理やりにでも褒めてその場を誤魔化すことにした。
「そういやしおり読んだが?」
「読んだ。明日朝早いなあ」
「さっさと寝ないとな。お風呂行ってきた?」
「あーまだ行っとらへん!!食器洗ったら行くわ」
そう言いつつも乃愛は相変わらず荷物の確認をしていた。そんなに心配になるようなものないと思うのだが。
「つうかあんた、私があげた鞄で行きよるん?」
「まあ、そうだな」
「いやそうだなやなくて、荷物何入れたんや??」
「服と水着。以上!」
「以上!!やのうて!!」
「後財布」
「いやそういうことでもないて!!遊び道具一切なしかい!!そりゃそんな小ささにもなるわな」
俺はそう言われつつ手早にチャーハンを食べ切った。やはり美味しかった。
「まあいいだろ?遊び道具は他の人が持ってきてるし、俺は俺なりに楽しむから」
「ほんま、楽しみにしとるんやんな?旅行やで旅行」
「まあ小学校も中学校も修学旅行に行ってないから、確かに楽しみではあるけどな」
シーンとした沈黙。それをかき消すように、俺はシンクへ皿を持って行きつつ笑った。
「実質、人生初旅行よ。そりゃもう、楽しみだって」
自分の感情がわからないと嘆くことの多い俺だが、その時だけは明確に楽しみという感情が浮かんでいた。その顔を見て、乃愛も安心した顔で笑っていたのが印象的だった。




