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いっそ泣きたくて

 私だってその日は、実は黙って何処かに出掛けていた。古都にある本屋さん。この前迷惑をかけたからと言って、誘ってくれたのだ。その相手は遠坂(えんさか)くんである。


 特に何かを話していたわけではないし、生徒会の話をするついでに寄っただけだった。昼過ぎから夕方まで、2人でカフェと本屋を巡っていた。


 もしかしたら、である。私は布団に入りつつ、疲れ切ったのかその寝顔を見ていた。何かしら考えているのかもしれない。


 私だって、好意に気づかない訳ではない。好きとは少し違う感情かもしれないが、気に留めてくれる存在なのは間違い無いだろう。そしてちかちゃんは、友一のことが好きだ。だからこその疑念だが、少し訝しく思い過ぎだろうか。ちかちゃんが遠坂くんと手を組んでいるなんて、アニメや少女漫画ではないんだから。


 だとしても、やはり少しだけ疑ってしまうのは、昔の私が顔を出してきているのだろうか。ドロドロした感情は人を不安定にさせる。隣で寝ているその安らかな頬を全力で摘みたくなった。


 友一はどこまで気付いているのだろうか。


 友一は今何を思って生きているのだろうか。


 わからない、こんな近くにいるのに、何一つとしてわからない自分が息苦しかった。


 そう言えば、旅行の時期が近づいてきたな。


 元々は数人の予定だったのに、今ではプチ修学旅行くらいの人数が揃ってしまった。男子に人気なメンバーがいた訳でもないのに、人が集まったのは古森さんのせいだろう。だからこそ私は責めることをしなかった。彼女にはあと1年半の短い期間をもっと楽しんで欲しい。


 いやそれはいいのだが、ちかちゃんはまた何かしらし込んでくるのだろう。距離を縮めてくるのだろう。私と、本当に取り合うつもりなのだろう。


 ……わかってはいたけれど、あまり気持ちの良いものではないな。多分、これを最後にしたほうがいい。


 友人は、ちかちゃんはひかない。だから私がひくのはむしろ失礼だ。


 私は寝ている友一に、聞こえないような声でこう言った。


「あなたが本当に望んでいる人は、誰なの?」


 本当はその答えを知ってる。ちかちゃんはそれを乗り越えようとしている。でも私は、過去に戻ったらいいんじゃないかとすら思ってしまう。戻れる訳ないじゃないか。物理的には精神的にも。


「早く教えてくれないと……つらいよ」


 面を切って言えたらどれだけいいのだろう。腹を割って話したら、どれだけ楽になるんだろう。わからない私は目を覆った。いやそれでも……戦わなければならない。名前のない関係が、いつか切れてしまう前に。

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