4月14日その②
時が止まったかと思ったら、地球は思ったよりもしっかりと回っているらしい。
「クラスメイトだよ」
俺はそう言って、冷凍の唐揚げをおかずにご飯を口に入れた。この前スーパーの特売で買い込んだものである。揚げ物系は油の準備や後始末が面倒で、どうしても冷凍に頼ってしまう。
「本当か?」
「クラスメイトであることは自明だろ?同じ2-8の人間だ」
「まあそうだが…」
遠坂の真意は重々に理解していたが、自分からその言葉を口に出す気にはならなかった。なぜわざわざ聞きたくない言葉を聞かなければならないのだ。そんなバカなことをするほど、俺は堕ちていない。
「最近やたらと仲が良いなと思って」
「気のせいだろ」
「そうか」
続かない会話。それにイラつく自分ではない。むしろこんな生産性のない話、さっさと終わってくれとすら思った。
「住んでいるところ、近いのか?」
「そうかもな」
いつも同じ布団で寝てます、なんてことは流石に言えない。余計な混乱は避けたい。
「それがどうした?」
「よく一緒に登校しているなと思って」
「家が近くて、学生が登校する時間なんてダブりまくるんだから、会う確率は上がる。そうしたら少しくらい話すし、目的地も同じなんだから会話が弾めば駐輪場までは一緒になる。何かおかしいことでもあるか?」
遠くで乃愛が近藤や竹川とご飯を食べつつこちらをチラッチラッと見ていた。気になっているのだろうか。それにしても顔がほころんでいた。その口角下がった顔が、今ではイラついて仕方なかった。こちらは心底、冷え切っているんだが?主に乃愛のせいで。
「そうか…」
「そうだ。何か俺、おかしなことでも言っているか?」
少しの沈黙が、この独り言を耳に届けた。
「狙っているのか?」
青筋がビクついた。血管がねじ切れそうになった。机を思いっきり叩いて罵倒したくなった。
ありえない。それだけは絶対にありえない。たとえ仮定の話でも忌避すべきものだ。一瞬で入った怒りモードを察したかのように、遠坂は訂正印を押した。
「いやなんでもない。やめようこんな下世話な話。話を振って悪かったな、新倉」
少しだけ頭を下げた遠坂につられたように、こちらも頭を下げた。さっきまでMAXに溜まっていた怒りゲージは、見る見るうちに0に戻ってしまった。
「話題を変えよう。新倉、実力テストはどうだった?」
そうして軌道修正した昼ご飯の時間は、最終的にはお互いの好きなモーツァルトの楽曲を発表しあうとかいう謎の展開になった。まあ、乃愛の話をされるくらいなら、そっちの方が何倍もマシだ。久し振りにジュノームの話ができ、少しだけ満足したのは内緒の話だ。




