表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
306/365

8月19日その⑧

 どうせなら明るい曲を弾こう。最初に誘ったときからそう心に決めていた。ジュノームのような女性の大胆さを表現したドラマチックなものじゃなくていい。フィガロの結婚のように貴族批判を入り混ぜた皮肉なんてもってのほかだ。悲恋的なものだって、この場では必要ない。あくまでも大切なのは楽しんでもらうこと。お客さんを、マスターを、そして目の前の彼女にとって邪魔にならない程度の休日を味わってもらうことだ。


 ハ長調は指に合っているのか、それとも明るい曲が自分に合っているのかはわからない。しかしながらこの曲を昔から弾いてきた。ピアノ協奏曲20番のアンサーソング、ピアノ協奏曲21番。通称は同作が後年に使用された映画より採択されている。


 アレグロだというのに、はなからヴィヴァーチェで弾き始めてしまった。恐らくコンクールでやってしまったならば、1発で落とされてしまうだろう。でもこっちの方が楽しいと俺は思っていた。この曲はもっと跳ねるように弾きたい。それこそ、JAZZダンスのように。


 ソナタ形式なので、展開部であったり再現部であったりと交響曲らしさが垣間見える。今なんかそれっぽいことを言ったが、教室に行ったことはないのでそれっぼいことしか言えなかった。今度しっかり習った人に聞きたいな。そういや昔、ピアニストの方にピアノを見てもらったことあったっけ?もう面識はないけど。


 第一楽章をなるべく快活に弾ききった。これも昔から。第2楽章以降が悪いなんて毛頭いうつもりはないが、27分弾き続けるやる気と体力がなかったのだ。その上楽譜なんてないから、耳コピで演奏していた時も数多かったし。


 弾き終わって膝に手を置いた。そのまま少しだけ空を見上げた。なんだ、全然大したことないじゃないか。そう思えた理由がわからなくて、お店の雰囲気のお陰にでもしようかと思っていたその時だった。


「もしかして……norくんか?」


 のあ、という単語を聞いて俺はビクッとなってしまった。寝坊助をしていた彼女が起きてきたのだと思ったのだ。同じタイミングで近藤(ちかふじ)もびっくりしていた。彼女が現れたと思ったのだろうか。


「どうしたんだい??今日もジャズフェスなのかい?」


 しかしそう声をかけてきた主の招待はジャズフェスの常連さんだった。タンクトップを着た小太りの40代だったが、ジャスフェスの時はいつもスーツ姿で決めるからよく目立っていた。しかしその人だけではなかった。


 沢山の人が、JCカフェに集まってきていたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ