8月19日その④
そこから2人は、色んなお店を回った。
百貨店でよく見るアースなんたらって言う女性用服飾店。
同じくグローバルなんたらと言う男性用がメインの服飾店
おしゃれな水着の売ってあるブーンとか言う服飾店
他にも色んな服を見に行って、最終的には何でも売ってるLAFTにも足を運んだ。
服の値段の相場はわからなかったものの、文具の相場はある程度知っていたから、LAFTはやたらと高いなと思った。日頃百均の安物しか使っていないからだろう。
「荷物、持とうか?」
近藤は自分で買った何着もの服をかかえながら店内を歩き回っていた。何度もこうやって荷物を持とうかと問い掛けているのだが、
「大丈夫だよ!うん、大丈夫」
と言うだけで全然荷物を預けてくれなかった。別に荷物持ちでも全然良いのに……
「そういや、なんだかんだで知らなかったんだけどさ」
近藤は少しだけ申し訳なさそうな顔をしつつ尋ねようとしていた。何が聞きたいんだろう。
「ピアノ、好きなんだよね」
「まあ、たまに人前で弾くくらいには」
「好きになったきっかけって、何なのかなって」
近藤はちらちらとこちらを見つつ尋ねてきた。なんだ、そんな理由か。
「子供の時にピアノ譲ってもらって」
「うんうん」
「それから、気付いたら引き始めてた」
「そ、そうなんだ!……えっと、教室とか行ってたわけじゃないんだ」
目の前には10月始まりの手帳が並んでいた。でも手帳が欲しいのではない。たまたまここにたどり着いただけなのだ。
「そう、だな。習い事じゃなくて、趣味の範疇だし」
「そんな!人前でライブするなんて……」
ライブは趣味の範疇ではないか?俺も少し自信がなくなってきた。そのまま少し、会話が途切れた。もう少し、面白く応えた方が良かっただろうか。実はモーツァルトの再来だとか。口が裂けても言えないけど。
「そうなんだ……聞きたいなあ」
「あージャズフェスの時居なかったっけ?」
「あー居なかった……よ?」
何故疑問形なのだろうか。でも少なくとも、JCカフェでのライブには居なかった気がした。いや、確実に居なかった。
「凄かったって話はいっぱい聞くんだ!!」
「沢木とか古森が騒ぎまくってたからな」
「そろそろ他クラスからも言われるかもよ」
「え?そんな広まってんのあの動画」
「2人とも影響力半端ないからねー。インフルエンサーってやつ」
それは……迷惑だな。声には出さなかったけれど、少し眉間にシワが寄った。
「一度聞いてみたい」
「来年はきてよ、ライブ」
「来年まで、しないんだ」
「する場所もないし、する気も起こらない。一年に一回で、十分なんだ」
それはこの前、痛いほどわかった。追加のライブなんて、俺にはいらない。急場のライブで乗り切らないまま終わって、なあなあで健闘を称えるなんて、俺にとってはやらない方がマシだ。
「十分と思い込むことにしてるんじゃないの?それ」
冷たい言葉だった。でもそれは、身体の芯に迫ってきた。
「例えばそう、誰かにそう言われたとか」
とここまできて、手帳に書かれた年度が数年さかほ取った気がした。
「……うん。違うなら、もう一度聞きたいなって。待てないもん、来年までなんて」
横に立っている彼女は、清々しいほど凛とした顔をしていたのだった。




