8月19日その③
「ごめんね、待たせちゃった?」
近藤は約束時間ぴったりにやってきた。5分袖のチュニック白ブラウスに、デニム色のジーパン。それも膝下10センチまでしかカバーしておらず、そこから下は生足だった。よく焼けた腕は野球部マネらしく、その小麦色は赤色の髪の毛とよく映えていた。やはり結構おしゃれしてきたようだ。大したことのない服装を着てきた自分に、少しだけ失望した。
「待ってないよ」
「そ、そう?」
赤とピンクの境目のような色をした傘を手に下げていた。少しだけ水滴がついていた。
「雨だったねー。傘は鞄?」
「いや……」
俺は逡巡した。あまりあの人のことは言わないほうがいいな。ダメな年上の見本みたいな人だし。
「こ、こっちは降ってなかったんだよさっきまで」
「あ、そうなんだ。じゃあ帰り道は止んでたらいいね」
近藤はあっさり信じてくれた。俺はほっと胸を撫で下ろしていた。そしてそのまま2人、ショッピングモールに入っていった。ちょっと時刻は、開店時刻になっていたのだ。
「ひ、久しぶりだね?」
近藤は少し声を震わせていた。寒いのだろうか?確かにショッピングモールの中はここまで必要がないだろうというくらいエアコンが効いていた。あのアパートとは大違いだ。
「誕生日以来?かな?」
「多分そうだと思う……」
「部活大変そうだよな」
何も考えずにエスカレーターに乗った。近藤は持っていたオレンジ色のポーチを後ろ手に持って、少し上目遣いになって後ろからついてきていた。
「そうだねー。またこれから新チームになって、秋大会があるんだ。大変だよ」
「秋大会?」
「そう!勝ちあがったら春の甲子園に出れるんだ」
甲子園は春にもやっていたのか。特に深い意味はないが、友一にとって甲子園は夏のイメージしかなかった。特にスポーツに興味のない一般人の雑感である。
「そっか、頑張らないとなんだ」
「そうだよー。結城くん抜けちゃったし、大変だよ」
「部活やめたのか?」
「や、学校変わるんだって」
初耳だった。転校なんて、高校生になってしまったらほとんど聞かなかったからだ。結城はうちのクラスにいるいがくり頭の野球部員だったし、ほとんど話したことはなかった。
「親御さんの関係だって」
「そ、そうなんだ……」
「……」
少し空気が重くなった。それを察したのか、近藤は少しトーンを上げて話題を変えてきた。
「新倉くんは、この夏何してたの?」
色々していた。色々していたから、纏めるのが大変だ。しかも、乃愛のことは隠しておかなければならない。
「……バイトして、ピアノ弾いて、故郷に行ってた」
「へー、いつも通りだね!」
俺はまたも、嘘ではない表現で逃げたのだった。




