新倉友一の前夜
「なんかこれ、過去のデジャブな気がする」
「そ、そ、そうかなあ……?」
「具体的に言うと4月の頭、更に言うなら5月の頭」
「知らないなあ……聞こえないふり聞こえないふり」
そう言いつつ乃愛は手を動かし続けていた。
「今度は何でマフラーを作ろうと思ったんだ?」
「最終目標はカーディガンやねんで、ならこの辺りでマフラーを編めないと難しいやろ」
それに合わせて友一も手を必死に動かしていた。
「そんなもの作らなくても冬はしのげるってのに」
「作らなあかんの!今の日本は夏が死ぬほど暑くて冬が異常に寒いんやで??もしかしてこの古物件は寒い時期にはめっちゃあったかくなるんか?おん?」
「あったかくなるやで」
「なるやで、じゃねーんだよ!!私は知ってんだよここで去年暮らしていたからなあ!!!」
下手糞な関西弁を話してしまった。イントネーションがよくわからない。
「で、文化祭でこれを売ると」
「そうそう!」
「……少し調子乗ってないか?」
「前回売れたしいけるやろ!!って思っとる」
「うん、乗ってるね」
「むううううう」
顔をしかめた乃愛を尻目に、俺は手伝いをしていく。長い時間をかけて編み上げられたそれは、誰の手に渡っていくのだろう。
「なあ、友一」
「どうした?乃愛」
そして今回も、何の変哲もないピロートークを始めるのだ。
「家族って何やろね」
「なんなんだろうな」
ずっと避けてきた話を今振るのか。焦ることなく答えた。午前ゼロ時を回ろうとしていても、頭はまだ起きたままだった。
「わかんないことばっかりなんだ」
「俺よりもわかるだろ」
「わからんよ、あんな家じゃ、普通の家庭のことなんてわからない」
そりゃそうだ。わかっていたがこう返してしまった。
「遠坂のところは、本当に暖かい感じだったな」
「うん」
「理想の家って感じだったな」
「そうそう」
「でもさ、仕方ないとも思う」
「仕方ない……」
「ほら。人生は妥協でできているからさ。親を選べないのは子の不幸だから、諦めるしかないと思う。それこそ、どこの国のどこの場所で生まれたかと同じだ」
言葉に熱を帯びてきたが、手は止まっていなかった。
「でもさ、思ったんだけどさ」
「うん」
「一応17年間生きてきて思ったんだけどさ」
「うん」
「それでも人は生きていけるんだなって。真っ直ぐ育ったからはわからないけど……」
「真っ直ぐだよ。誰よりも真っ直ぐしてる」
そう呟いた乃愛は、少し息を吐いた。
「でも、良かった」
「何が?」
「結論が同じだった」
そう言って笑う彼女は、少し尊くて、俺は視線を逸らしてしまった。そのまま丑三つ時まで製作を続けたのであった。




