8月18日その⑤
仕事終わり、今日は自分1人だった。流石に身体が悲鳴を上げていた。そりゃ昨日は朝から晩まであの大移動だ。疲労が残っていないという方が嘘である。だからこそ誰もいない更衣室で、1人のびーっと身体を伸ばしていた。うゔーん!!!!とかいう言葉で表現しづらい声も出していた。
「お、なんかすんごい疲れてる様子だな」
そういえば隣の部屋が事務部屋だったな。夕方からここまでの売上を打ち込みにきた店長が、ひょいっとこちらを覗きつつそう茶化した。
「なんだ?昨日の夜はハッスルしたのか?」
そして男しかいないのでセクハラ満天の質問を投げかけてきた。いや最近は男同士のセクハラもあるみたいだから一概には言えないが。
「まあちょっと小旅行してきたので」
「ほー、どこへ?」
「神戸ですね」
「確かに小旅行だな。電車だと1時間くらいか?」
俺は曖昧に肯定した。多分そうなのだろうが、電車で向かわなかったから確証が持てなかったのだ。
「神戸のどこ見てきたんだ?中華街か?ポートタワーか?」
そういや、観光地らしい観光地ってほとんど見回ってないな。そう思いつつもポートタワーには写真撮りにいったので、
「まあそんな感じですね」
と答えておいた。
「神戸なあ……良いとこだよなあ……山もあるし海もあるしパンもうまいし肉もうまい」
「神戸牛ですか?」
「そうそう、あれうまいんだよー」
いつも通りの、何の変哲もない会話。そこから急に、店長は路線変更してきた。もう着替えは上着を羽織るのみだった。
「そういやさ、今度も兵庫行くんじゃなかったっけ?」
ん??俺は一瞬止まってしまった。気付いたら店長はもうタバコを加えて壁にもたれかかっていた。
「お前が成人してたら1本薦めてたのにな」
「いや成人してても吸いませんよ」
そう言って俺は鞄を持った。更衣室には実家に帰ったお土産かわからないがお菓子がいろいろ置いてあった。
「兵庫……あー22日の」
「それそれ」
「確かに兵庫でしたね、北の方ですけど」
「あーそうか。お土産期待してる。蟹とかでいいぞ」
「買えるわけないですしシーズンでもないですよね?」
店長は少し控えめに微笑んだ。何だその顔は、と俺は思いつつ帰ろうとした。
「まあ、あれだよ。新倉は傍目から見ても働きすぎている。だからたまには羽を伸ばさないと、大変なことになるぞ」
「例えば?」
「後から死ぬほど後悔する。その時じゃないとできないことっていっぱいあるしな」
そう言って見送る店長に、いつも通りの挨拶をして、俺は足早にその場を去った。なんか気持ち悪かった。そんな教訓めいたことを言われても、あまり響かないのは多分自分のせいだ。




