4月13日その②
「あー乃愛?明日空いてるか?」
いきなりの質問に、乃愛はコップを少し丁寧に起きつつ答えた。
「水泳部の練習終わってからは空いとるよ」
「6時までだっけ?練習」
「そっそ!!」
「そっからどっか食べに行かね?」
ここまできてようやく、乃愛はピンときたらしい。目がまん丸になった。
「もしかして友一、今月は15日が土曜日で銀行がやっとらんから…」
「そう!明日が給料日だ」
俺は少し力強く、言葉を貯めつつ言った。乃愛は手をバンザイにして喜んだ。
「やったああああああ」
しかしその大声に対して咎めるような無粋な真似はしなかった。俺もバンザイして喜んでいたからだ。
「ついに、ついにこの数ミリしか暑さのないハンバーグからも卒業やねんな」
「おい俺のハンバーグを指差すな。しかもこれ結構うまいぞ」
「朝に鶏がらスープとかいう貧乏飯からも卒業やん」
「まああれはやりすぎだったな。色んな意味で」
もぐもぐと食べ続け、パンと手を合わせた。ご馳走様である。
「にしても3月ってあんなにお金かかるんだな」
食器を片してシンクに持って行く。その途中でも俺は愚痴を止めなかった。
「学費の引き落とし、家賃の支払い、水泳部の合宿費支払い…」
「それは正直悪かった」
「俺もゴールデンウィークのジャズフェス費用払ったしイーブンよ」
しゅんと小さくなった乃愛を俺はそうフォローした。言って内訳で見ると水泳部合宿費もジャズフェス参加費も微々たるものである。壊れたトイレの修繕費と学費の一括支払い、それに修学旅行で使うパスポートの申請とPTA関連費の支払い、こうしたお金が積もり積もって、4月1日にはもう食費に週で1000円も掛けられるかという瀬戸際に突入していたのだ。これからはここまで酷い生活になることはないだろう。多分だが。
「相変わらず8万円?」
「そうそう、月収8万円」
「もっと仕事入ってた気ぃしたけど、気のせい?」
「気のせいよ。それで…どこ行きたい?」
「回るお寿司屋さん!」
即答だった。まるで前々から決めていたような速さでそう言った。
「…1人当たりのお金決めなきゃ、散財するよな?」
「えーそーかなー?」
「お前に言ってんだよ運動部」
「あんたも結構大食いやろ帰宅部」
2人で暴言を言いあって、2人でニコッと笑った。
「1000円な」
「おうよ」
「それ以上は許さない」
「1080円は?」
「……許そう」
ふふふふと笑う乃愛。
「何食べよっかなあ…何のネタにしよっかなあ…」
そうして垂れるヨダレを見ながら、俺も明日を楽しみにしていた。




