8月17日その⑧
「新倉くん?ご飯食べてる??」
「いや、自分唐揚げみたいなジューシーなやつはそんなに……」
「これもーらい!!」
「こら参国!!人のご飯を取るな!!」
「参国も言海も喧嘩するなー」
「だって泥棒!泥棒されたんだもん!!」
「さっさと食べないお姉ちゃんが悪いんだー」
「あんたのご飯はまだたくさん残っているでしょ??早く返しなさい!!」
「会長、すみません騒がしくて」
突然話を振られて、乃愛は大変動揺した顔をしていた。そりゃそうだ。遠坂家の団欒に俺と乃愛が混じっているのだから、恐れ多いのと申し訳ないのとどう振舞えばわからない感情で右往左往していた。なんでこんなことになったのかは、むしろ俺が聞きたい。気づけば遠坂の家にいて、気づけば遠坂の家で風呂を貸してもらい、気づけば晩御飯をご馳走してもらっていたのだから。何一つとしてこちらからお願いしたものはない。全て茉希さんのご厚意によるものだった。
「い、いや大丈夫だ。にしても……遠坂は大家族なんだな」
「??いや、自分自身は一人っ子ですよ。ここにいるみんな親戚の子です」
その場にいた子供たちは部外者の乃愛と俺を除いて5人いた。喧嘩ばかりしている小学3年生くらいの参国君、5年生くらいの言海ちゃん、その2人を注意している中学生くらいの泉言さんと、黙々と食べている幼稚園生くらいの林次くん。
「そうなの。うちでは盆と正月は家族みんな揃うってことになっててね」
そう茉希さんが解説してくれたが、その割に大人の数が足りていなかった。
「あ、確かに私と主人しかいないからみんな子供みたいに思うわね。言海と泉言のご両親は先に海外へ帰国してて、参国と林次のご両親はデパートの店長さんだからなかなか帰れなくてね。うちで預かっているのよ。そろそろお別れだけどねー」
そう声をかける茉希さんに、ねーと同調する四人の子供。俺はやはりなじめなくって、そそくさとサラダばかり食べていた。唐揚げにハンバーグにとんかつにと、子供の好きそうなものが食卓に並んでいて、それは俺にとってはそこまで好みの物じゃなかったのだ。
「親戚付き合いなんて、最近じゃ珍しいと思うけどね」
「いや、素晴らしいと思います。私のところには……」
乃愛は話そうとした言葉を詰まらせてしまった。
「あまり、そういうことはないので……」
「あらそうなの??やっぱり珍しいのかしらねえ」
あえてなのか無意識なのかわからないが、茉希さんはしんみりしそうな雰囲気を一気に吹き飛ばした。まあもちろん、俺も経験したことはないが。
「古村ちゃんも新倉君もいっぱい食べるんだよ?おかわりいるかい?」
「これあげるよー綺麗なお姉ちゃん!!」
「あ、言海!!それ俺の!!!」
「さっきのお返しー!!」
「もう、2人ともいい加減にしなさい!!ごめんねお姉ちゃん。いつもより騒がしくて……それより!!後ででいいから日本の高校生活について聞きたいんだ!!いいかな?」
「も、もちろんいいよ」
人懐っこい、暖かい家庭。経験したことのない暖炉のような空間に、夏なのに自身の寒さを痛感してしまった。それは恐らく、乃愛もそうだろう。




