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8月17日その⑥

 その後も2人のささやかな調査は空振りに終わった。


「やはり外見の特徴何一つなかったら厳しいな」

「それにもう15年も前やしな。覚えてるわけないて」


 2人でそんなことを話しつつ、陽は徐々に傾き始めていた。写真は大量に集まったものの、それは総合の時間で使う用のもの。結局、乃愛(のあ)の家族に関するものについては、何一つとして有力な証拠を得られなかった。


「予想されてた結末やけどな」


 更にそりゃそうだと付け加えると、乃愛は笑っていた。


「でもまあこれで、お墓参り終了って感じで」

「そうだな。お盆はこうやって過ごすのもありだな」

「多分全国で私らだけやろうね。こんなことしてお盆休み過ごしとるん」

「そりゃそうだろ」


 他のみんなは弔うべき先祖がいて、弔う場所として墓がある。ご先祖様の顔やエピソードを覚えていたり聞かされたりして、過去のルーツに想いを馳せることができる。それが普通で、ごくごく当たり前で、でも俺達にはそれがない。


 なすもきゅうりも使わなければ、花も線香もたむけない。それでも俺達は、顔も名前もエピソードもない先祖を弔った。


「友一にも、してあげたいな」


 乃愛はそう言って、こちらを少し見てきた。公園のベンチに腰掛けた2人は、まるで家族のように見えただろうか。


「いいよ別に。ここでどんな親だったか想像するだけで、ちょっと報われた気がするし」


 俺はそう本音を言った。間違いない本音だ。別に普通なんて求めていない。最初からそんなもの俺の人生にない。だから要らない。普通なんて、みんなが求める本物なんて、俺には要らない。


「でもなあ……そうだ!」


 っとここで、乃愛は掌に握り拳をうった。


「一応ここでお参りして行かん?神様お願いしますって」


 そして目の前の神社を指さした。なんたら稲荷って書いてあった。


「俺の家神道だったかわかんねえぞ」

「いいっていいって!!神さんは平等やろうから」


 何言ってんだとも思ったが、しかし神社に行ってみたいというのも事実だった。普通は要らないが、普通のことしているという形式は欲しがる。我ながら面倒な性格をした男だと思ったが、乃愛もそれに同意していた。


「まあいっか。帰りの安全祈願くらいしておきたいし」

「あーそれほんま重要なやつ!」

「帰りの方が体力ないからな」

「結構こいだもんねー!よし!!!」


 そう言って2人同時に立った瞬間だった。後ろから少しだけ聴き慣れている声がした。


「会長……」


 先に俺が気づいた。振り向いてそこにいたのは、そういや実家は神戸だと言っていた彼だった。そう、遠坂(えんさか)のことである。

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