8月17日その⑤
それから2人は、様々なところを回った。
ポートタワーの写真があったから、神戸のシンボルまで自転車で向かった。どうせならとBe To KoBeにも行った。若者の間では新しいスポットなのだが、2人で行っても海風を浴びるだけだった。
異人館の街並みも写真にあったから、北野まで自転車で行く羽目になった。ぎこぎこと坂道を登っていって、たどり着いたら山が側にあり海が見下ろせた。
「神戸のこういうところがいいよな。山と海が共存しているこの感じ」
そう言って乃愛に同意を求めたら、
「そう、だね」
と彼女らしくない歯切れの悪い回答しか返ってこなかった。恐らく乃愛は、もしかしたら見たかもしれない光景を目の当たりにして、少し感慨深くなったのだろう。そう思いつつ、俺は写真の構図と同じ白い塗装の建物をパシャリと撮った。
俺達が向かったのは何もそう言った観光地ばかりではない。なんて事のない風景があった時には、2人でヒントを探りつつ場所を探していた。中には建物しか写っておらずなんの思い出があるのかわからない写真もあって、頭を抱えることもしばしばあった。
「乃愛、そろそろ休憩するか?」
中華料理屋が写っているという一点だけをヒントにたどり着いた何枚目かの捜索の後に、俺はそう提案した。
「乃愛?」
「あーうん!そうだね!丁度そこの中華屋さんやっとらんかな??」
そう言って彼女は取り繕っていたが、疲労からか感慨からか分からないが少し反応が遅れているようだった。
昼ごはんの場所に選んだ中華料理屋は、年季が入っているという表現で収まるかわからないほど老舗感を漂わせていた。壁は煤けているし、昔の雑誌とか置いているし。メニューも少し髪が黄色くなっていた。
「気にせず食べていいぞ。その分電車代浮かしてるんだからな」
「いやいやいいよ。ここ安そうやし、普通の炒飯でいいかな?」
そう言いつつ乃愛は昔ながらの炒飯というメニューを頼んでいた。確かに1番安い昼飯メニューだが……俺はそう思いつつ店員さんを呼んだ。
「ハイヨ」
「この炒飯2つお願いします」
「ハイ。以上で?」
「よろしくお願いします」
「アリガトゴザイマス」
そう言って下がっていこうとするおばちゃんウエイトレスを、乃愛は引き留めた。
「すみません!」
追加の注文でもあるのかと思って身構えた相手の期待に反し、乃愛はこう尋ねた。
「昔……15年くらい前……ここに赤ちゃんを連れた夫婦がやって来たりしませんでしたか?」
なるほど確かに、この店をファミリー層で使うイメージはない。いいとこ仲良し大学生くらいだ。そう感心していたが、相手の返答で全てが泡となった。
「スミマセン、ワタシ、ココキョネンキタバカリナノ」




