8月17日その④
写真は昨日、鷹翅でもらってきた。樫田さんが貸し出してくれたのだ。何でこれが欲しいのかと言われたから、お墓参りをしたいからだと答えた。嘘は一言も言っていなかった。そしてその真意を、あの人も重々理解していた。
「一つめはここだね。生田川公園ってとこみたい」
「どれどれ……本当だこの遊具間違いないね。周りの景色も一致してる……」
しかしながら張本人の乃愛はいまだに戸惑っている様子だった。実際に古ぼけた写真に写っていた光景を目の当たりにしているのだが、どことなく他人事のような雰囲気を出していた。すこし、お節介が過ぎただろうか。
「多分この角度から撮ったんだろうね。バックにビルを拵えて」
「うん……川の近くだね」
川で拾った子、なんて注意の仕方があるらしい。リアル拾われ子からしたら偶に悲しくなる時もあるが、気にしないようにしてきた。
「それじゃあ、そこに立って」
俺はそう言って、乃愛の持っていた写真と同じアングルに彼女を立たせようとした。無論乃愛はわけを聞いてきた。
「ん?どうして?」
「写真撮る」
「え??」
「だってこれは、乃愛にとって親からの唯一の形見なんだろ?なら、それと同じ写真を撮って、生きてるか死んでるかわからない親へお盆参りをしないと」
もうお盆の季節は終わっていた。帰省ラッシュもピークを過ぎた。それでも俺らは、16年ぶりの法事を始めた。
「ほら早く、写真撮るから」
「でも……」
「ついでに総合の時間にも添付資料として使っちゃえば一石二鳥だろ?」
急かされつつ写真に写る乃愛。俺は景色を同じアングルにすることと同じくらい、乃愛が目一杯美しく撮られるように気を使った。
「よし、このスポットは終わり!」
そう言って手をパンパンとたたいた。あくまでここは、俺と乃愛の親を間接的に祝うためのお参りだ。周りの子連れママから変態と断定されているように思えたが、気にしたら負けだ。
乃愛にあって俺にないものはたくさんある。コミュ力とか地頭の良さとかみんなに好かれる性格とか。いやでもそうじゃない。彼女は持っているのは、実の両親に関する手掛かりだ。10数枚の写真は、彼女の行動範囲や親の行動先を見つけることができた。そしてそれを追っていこうじゃないか。もしかしたら、そこに彼女の出産の秘密が隠されているかもしれない。
「ねえ、ゆーいち」
「ん?」
ぶっきらぼうに答える。
「本当に、いいのかなあ……」
「これも弔いかたの一種さ。顔も名前も覚えていないらしいけど」
キリッとした顔を俺だが、心の中はぽっきり折れていたのは内緒だ。




