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8月17日その③

 流石に4時間漕ぎ続けて疲労が浮き彫りになってきた。日の高さが増していくだけでなく、アスファルトも徐々に熱さを訴え始めていた。もう俺と乃愛(のあ)は何度もコンビニに寄っては休憩しつつ、少しずつ神戸を目指していた。


「流石に暑くなってきたねー」

「そうだな」


 近くにあったファミリーマートに寄って、駐車場でアイスを食べる。イートインスペースくらいつけてくれよと、道沿いの小さなコンビニにケチをつけつつ、購入したのはソーダのガリガリ君。


「70円でこんなに安くなるなんて犯罪やと思うわ」

「ほんそれ」

「そういや最近は携帯決済なんてもんもあるんやなあ。キャッシュレスやなあ」

「そもそも俺らじゃ口座作れないだろ。どこの銀行がこんな2人信用するんだよ」


 未だに引き落としではなくわざわざコンビニ払いを選択している新倉家では、海外で進んでいるというキャッシュレス社会へは乗り遅れるに違いなかった。現金しか自分たちの信用は得られないのだ。


「ほんま、しゃりしゃりしててうまいわー」


 ガリガリ君の良いところは値段の割に大きい所だ。


「結構満足感あるな」

「これが今日の朝飯やからな」

「……だと思ったら物足りねえな」

「しゃーないやん。70円なんて2人の朝飯からしたらむしろ割高な方だろ?」


 まあ一時期鶏がらスープ鶏ガラのみとかしてたことを鑑みると、たしかに70円は高いかもしれない。コンビニで1番安いお菓子が、我々にとっては嗜好品で贅沢品なのだ。


「もう神戸市に入っとるんやんな?」

「まあ一応灘区らしいな」

「後ろの店名は神前って書いとるね」

「地名わかんない」

「私もー!まあでもとりあえず三ノ宮までは少しあるみたいやね」


 俺は既に何回か頭がキーンとなっていて食べるスピードが落ち始めていたというのに、乃愛はガシガシと食べて既に外れ棒であることを確認していた。そして食べ終わってからは棒を口に咥えては細かく振動させて遊んでいた。


「そういやストローの口とかさ」

「うん」

「噛んでボロボロにするとかあるじゃん」

「あーあれよく子供の頃やっとった!」

「あれ欲求不満とか愛情足りてない証拠らしい」

「え!?!?」


 乃愛は慌てて棒を口から出した。既に棒の先っぽは裂け始めていた。


「や……あの……」

「……これからは食事増やすか」

「ちゃうからちゃうから!!これはあれやって!!昔からの癖やからほんま!!」


 久しぶりに慌てる乃愛を見た気がする。俺は笑って、その様子を眺めていた。


「にやにやすんなー!」

「ははっ、ごめんごめん」


 そう言いつつ食べたガリガリ君の棒には、相変わらず何も書かれていなかった。2人でそれを捨てに行った。


「さて、一路三ノ宮を目指して頑張って向かいますか……」

「乃愛!」


 このタイミングで、俺は呼び止めた。愛情不足の話は、何も完全な与田話ではない。差し出したのは、10枚を優に越える写真。俺にとって、この旅の本当の目的はまた別にあったのだ。


「良かったら、この写真の場所も見に行こうよ」

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