8月15日その②
「班のメンバーになんか言ったっけ?」
「言っとらん。多分忘れとるんちゃう?」
「遠坂あたりはなんとか書けそうやけどな」
「あの子神戸住んでたことあるって言ってたもんな。自己紹介で」
2人プリントをまじまじと見つつ、同時にため息をついた。
「お盆やもんなあ」
「そうだな」
「みんなおじいちゃん家とかおばあちゃん家とかに帰っとうかなあ?」
「そうかもな。一応聞いてみるか」
そうして俺は遠坂に連絡を取ってみたが、彼は九州にいるらしい。中津の唐揚げの写真を送ってきやがった。母方の祖母の家でのんびりしているらしい。宿題のことを伝えると、
『え?そんなのあったっけ?』
なんて返してきやがった。能天気なやつだ。まあ連絡すら返さないもう1人の班員に比べたらマシかもしれないが。
「あかん、ちかちゃんも石川に帰っとるんやて」
乃愛はそう言って頭をかいていた。心底困った顔をしていた。
「夏休み始まるまでにやる時間ある?」
「ネットで適当に書いていいならなんとかなるけどな」
「あかんやろなあ……写真とかとってこいって言っとったような気がする……」
うーん……腕を組む2人。ここまで順調に終わらせてきた夏休みの宿題だが、ついに最大の難関が立ちはだかったのだった。
「うーん、でも今日はこの後昼から2人ともバイトやしなあ」
「明日も夜からあるぞ。これは諦めて遠坂に書いてもらうしかないんじゃね?」
乃愛は暫く考えた末に、口を開いた。
「明後日は空いとうやん!」
「そうだな。旅行の準備をする日にしてたんだっけ?」
「あ、そうかあ……うーん」
もう俺はさっさと諦めて、遠坂に有る事無い事書いてもらって写真も撮ってもらおうと思っていた。申し訳ないものの、我々には今神戸に出るお金もないし、時間もない。貧乏なほど人はせわしなく生きているのだから、仕方ないと思って欲しかった。
しかし、乃愛は違うようだった。なんの可能性を追っているのかはわからないが、とても深く深く考えているようだった。
「なあ、友一」
そして彼女は、少し恐る恐る口を開いた。
「ん?どうした?」
「やっぱさ、神戸行かへん?」
「お金ないだろ。結構電車賃するし、それだけのために……」
「何言っとんの?」
乃愛はまるで少し昔に戻ったかのように、鋭い眼光をこちらに飛ばしてきた。そして彼女は、なかなかに突飛な意見をぶつけてきた。
「自転車で行くんだよ、ここから自転車で向かったら、7時間もかからないしお金も浮くよ?どう?名案やない??」




