誤魔化すのは最後にしよう
それは、遠坂による細やかな提案から始まった。
「多分だけどさ、〇〇で距離を縮めよう!とかいうのがまず間違ってると思うんだ」
部活終わりの通話で、ふとそんなことを言い出した。私はそれを、黙って聞いていた。
「大きなイベントで距離を縮められる人は、多分その前からちょっとずつ努力して差を縮めてきて、それが一気に近くなるんだと思う。だから今回みたいに、泊まるイベントがあるからといって、それまで何もしないってのはなんかだと……」
「まあ遠坂はいいよ。私は野球部あるから、そうはいっても時間が合わないっていうか」
私はそう言いつつ、校門まで歩いていた。夜の学校は怖いと聞くが、定時制のあるうちではそんなに怖くない。先生だってちゃんといるし。
「そうだなあ。近藤はその点不利よな」
「ほんと、おんなじ部活同士付き合ったり、体育会系で付き合ったりする人の多さはそういうとこよ」
「だとしたら君と新倉なんて全然似合わなくなるぞ」
「……うるさい」
遠坂はこういう人に言われたくないことをビシッという性格だ。それが気持ちいい時もあり、今日みたいに疲れている時には重くのしかかる時もある。ただでさえ来年の、いや今年からのレギュラー捕手が転校してしまうのだから、野球部はもうゴタゴタだ。その波及は確実にこちらへと来ていた。
「そういう遠坂はどうなの?」
なので今日は、少し嫌な態度をとった。
「え?」
「まあでも遠坂は、生徒会一緒だから関係ないか。普段から仕事に託けてポイント上げまくってるでしょ?」
「……………」
しかしその嫌な態度が、見え透いたから訂正を入れた。なら最初からそんな態度取らなければよかったのにと、そう指摘されそうで嫌だけど、それが私である。
「あーあ、私も友一君と同じバイト先で働いたりすればよかったなあ……野球部あるから無理だけど」
「……………」
それ以前にバイトは原則禁止だ。生活のために仕方なくやる人もいるが、基本は禁止だ。そうじゃなくともやる時間はないが。
「だって2人きりで買い物とか誘うって、マジデートじゃん。もうごまかしきかないって感じで……」
「……………」
「………もしかして、なんの成果もあげてない感じ」
先程からの沈黙が、仮説の正当性を証明していた。私はため息をついた。異常なほど奥手な遠坂に対して、少し心配になる程だった。
「わかった!お互いちょっとポイント上げに行きましょ!遠坂は生徒会の活動で乃愛と2人きりになってなんかすること」
「ちょっ!そんな急に」
「私は明日の誕生日会で友一君をデートに誘う」
高らかな宣言。それは、退路を断ち覚悟を決めた決断だった。まあもう、遠慮するわけにはいかない。ポイントをあげる?いつも一緒に暮らす人間に対抗するには、そんな悠長な暇なんてない。だから私は、そう決めたのだった。
ごまかした最後は終わりにしようと。




