8月9日その③
確かそれは、朝の6時くらいだったと思う。俺はというと、なんと台所に立っていた。お腹が空いたのだ。今野達に拉致られ、もみくちゃになったのを解放され、少しだけ睡眠を取ると、無性に腹が減ってしまったのだ。
近藤に台所使用の許可はもらっていなかったが、冷蔵庫にあるものなんでも食べていいと会の始まる前に言っていたのを思い出した。無論ちゃんとみんなの分作ろう。要らないと言われたら持って帰ればいいだけの話だ。
冷蔵庫を開けると、そこには食材!食材!そして食材!!!!食材の嵐だった。そもそも冷蔵庫の大きさが桁違いだった。冷凍と冷蔵の区別すらない我が家の冷蔵庫と違い、氷専用の部屋、野菜室、チルド室など豪華に取り揃えていた。すごいと感心する俺だったが、もしや家庭の冷蔵庫ってこんなものなんじゃないかという恐れも持った。
何を作ろうか……ふと見つけた大量の卵が、結構賞味期限の短いものだらけとわかった。おそらくケーキに使うため、大量に買い込んだのだろう。卵料理でも作るか。俺はそう思い立ち、材料を揃え始めた。
俺のよく作る、非常に原価の安い卵料理がある。俺はベーコンと玉ねぎと刻みネギがあることを確かめて、それらを全部台所に置いた。まずは玉ねぎをみじん切りにする。家に残っている同級生は7〜8人だ。玉ねぎ1個は優に使うだろう。
薄く油を引いて、加熱せず置いておく。ベーコンを一口サイズに切っていき、玉ねぎの隣の皿に置いた。ついで卵は、割ってといだものに醤油と白だしを加え味を整える。深みを出すのにみりんが必要なんだが、いつもは加えずにいた。そのためだけにみりんを買う気になれなかったのだ。でも、今は違う。
ほんの少しだけ塩をまぶし、刻みネギも近くに置いたら準備万端。後はフライパンで焼くだけだ。
フライパンを加熱し始めた。勿論弱である。いきなり強だと玉ねぎやペーコンを入れた時には寝る可能性があるからだ。俺はまず玉ねぎを入れた。ほんの少し水を加えつつ、色がきつね色に変わるまで焦がし続ける。続いてベーコンを入れて、ベーコンがそこそこ色が出たら刻み葱を入れるのだ。数人分作っていたからか、結構な時間と量だった。これ、ちゃんと混ざんのかな?
ある程度焼けてきてからが勝負だ。俺はさっと割った卵を散らした。そしてすぐに下から上へ、決して焦がさないようにヘラを使い続ける。しばらく経ってようやくそれっぽい卵の塊ができた瞬間に、火を止めた。後は余熱でなんとかするのだ。
ボイルドしたソーセージを準備しつつ、俺はさらに朝ごはんを増やしていった。無論白米は炊飯機にあるしな。
こうして出来上がったのが、お手製ビュッフェだった。




