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8月9日その②

 近藤(ちかふじ)の目が、いつもよりもきっと開いている気がした。流石の俺も、既に窓から視線は外していた。学校と同じくらいある踊り場で、2人見合って立っていた。


「俺、と?」


 正直言って自信がなかった。服なんて鷹翅に無償で提供された古着以外ほとんどきたことがない。去年一度調子に乗って買ったGパンをいまだに愛用しているような状態だ。そんな俺が、女子と服を選ぶなんてまともにできるわけがない。


「きみ、と」


 しかしだからと言ってそれを理由に断るのはなんかあれだ。なんかあれってなんだ……そう、自分の身の上を紹介しているようでよろしくない。あまり他人に孤児院出身であることを言いたくないし、察せられて噂になるのも好きじゃなかった。だから念を押すように近藤から指名をもらっても、すぐに首を縦に振るわけにはいかなかった。


「でも俺、女子の服なんてよくわかんないし、あんま参考にならないんじゃ……」

「大丈夫だから」


 近藤は有無を言わせてくれないようだ。いや俺の意見は男子高校生としてそこまで間違った意見ではないとそう思うのだが、近藤の目は間違っていると訴えていた。


「私は、君と、買い物が、したい」


 圧倒された。その眼力に、仰け反るほどの威圧を感じた。次の瞬間には、首を縦に振っていた。


「いい……よ?空いてる日があるなら……」


 やはり俺は押しに弱いタイプだ。古森(ふるもり)のバンドの一件でそうだなとしみじみしていたが、今回は近藤の真っ直ぐな目にやられてしまった。


「空いてる日……19日とか?早朝は練習で、それからマネージャーはフリーなんだ」


 マネージャーは、ということは、沢木たち選手はまだまだ残って練習するのだろう。うわあ大変そうだと、他人事ながら思った。


 しかも間が悪いことに、いやいいことになのかもしれないが、俺はその日夜6時からバイトである。つまりお昼間に関しては、外に出れるということだ。


「夕方6時からバイトだから、それまでは空いてる」

「そうなんだ!じゃあ午前に待ち合わせにする?お昼ご飯食べてからちょっと付き合って?」


 どうやら近藤は、本当に俺に服を選んで欲しいようだ。ならばそれに応えてやるのが、彼女にとってプラスになるのだろう。背後から眠気でテンションがおかしくなった今野がダダがらみしてきたから、有耶無耶にしていいものではなかった。というか今野、首元を掴むな。伸びるから。

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