8月9日その①
誕生日とはこれほどまでに盛大なのだろうか。俺はそう頭を抱えるほど、彼らの騒ぎっぷりを達観していた。恐らく誰かの誕生日という理由にこじつけて、クラス全員で集まってどんちゃん騒ぎをしたかったのだろう。その舞台装置として俺が使われること自体、特に嫌悪感などはなかった。ただ、自分を矢面に立たせて何かやらされるのなら、全力で固辞しようと心に決めていた。
時刻はもう零時を回っていた。一部の女子達は自宅へ帰り、また一部の男女はそれぞれの睡眠部屋ですやすやし始めていた。もしかして、近藤の家も金持ちなのではないか?階段の窓から外を眺めつつ、俺はなんとなく街並みを見ていた。BGMには、高校生達の笑い声を選択して。
「新倉くん?何してるの?」
踊り場でぼーっとしていたからか、近藤が声をかけてきた。先程まではホストとして食事を出したり片付けをしていたようで、その名残か手が赤くなっていた。というか全身を見ても黒くなっていた。
「のんびり窓の外を見てた」
「花火とかやってるの?」
「この時間にやってるわけないだろ?12時だぞ」
「あっ、そっか!ご近所迷惑だもんね」
「それにパチパチ光ってたら寝にくいだろうしな」
そうだねーと笑う近藤を背中に、俺は窓の外を見ていた。
「で、何見てんの?」
「星空。見えないけど」
「この辺も結構田舎なんだけどねえ。夏の大三角形くらいしかわかんないや」
「デネブ、ベガ、アルタイル?」
「そうそう!」
「まあ俺の家からだとそれらすら飛行機と街灯に邪魔されてるけどな」
星は好きだ。昔から好きだ。もしも星を眺めるだけで貰える仕事があるのなら、時給1円でもやりたいと思うくらい好きだ。見ていると落ち着く。自身の無力さを痛感できる。だからこそ、普通の人間と同じような生活を受けられている今を、かけがえのない時間だと再認識できるのだ。
「星かあ……星なあ……」
近藤はそう小さく呟きつつ、ふっと天を仰いだ。
「日本海側だと、見えるかな?」
恐らくそれは、今月中に差し迫っているお泊まり会を見越しての設問だった。
「行ったことないし、わかんない」
「あ、行ったことないんだ。俺が聞いた話では鵺など鳥を好むから取りには気をつけるって……」
「ねえ、新倉くん」
まだ話の途中だったのに話題を切られてしまった。近藤はなんとも言えない顔をしつつこちらへ近づいてきた。
「旅行までにさ、あっ、時間ある?」
「あーあるけど……」
「水着とシャツ買いたいんだ」
「それじゃあ他のみんなも……」
「いや!!」
少し、下の階からの音楽が止まるくらい大きな声がした。続けて近藤は言った。
「きみと、行きたいんだ」




