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8月8日その①

 人の好意が苦手だ。そんな自覚は一切なかったのだが、俺はここ数日でそれを思い知った。なんで贅沢な輩なのだろうか。それをもらえなくて苦しんでいる老若男女に向けて謝罪しなければならない。でもそれでも俺は断言したかった。これまで味わったことのない、誕生日に対する意識付け。戸惑っていたし、どう接したらいいかわからなかった。


 別にやんなくていいよ!謙遜じゃなくてそう言いたかった。


 そんな、無理して予定開けないで!相手への配慮ではなく本当に申し訳なく思った。


 俺は別に、誕生日なんて祝われなくてもいいから!なんて、言えたらとっくにこんな計画破談になっている。


 俺はここ数日、ただただ動揺を隠せぬままバイトに明け暮れていた。


 多分1つには、誕生日が定かではないというのがあるのだろう。俺が生まれた日はなんとなく8月。夏の暑い日に拾われた。それしか知らない。わかっていない。だから愛着が持てないのだ。


 誕生日を疑わなければならない子供が、世界で1番不幸である。そしてそんな子供にとっての誕生日なんて、もはや普通の1日と何も変わらないのだ。


 でもそれ以上に感じた。怖いのだ。自ら望まぬものに周りが巻き込まれていくその姿が怖くて怖くて仕方ないのだ。


 わざわざ9日に休みを取って、家を招待してくれる近藤(ちかふじ)


 前日まで旅行に出かけているのに参加を表明した遠坂。


 幼馴染の彼女との遊ぶ日を1日ずらしてまで来てくれるらしい新河(しんかい)


 最近そそくさと古森(ふるもり)と連絡を取っている乃愛(のあ)。あれはバレていないと思っているのだろうか。バレバレである。何ケーキにするか悩んでいるらしいが、そもそもケーキなんて仰々しいものは必要ない。


 みんなみんな、嬉しいよりも怖いという感情が先行してしまった。何でそこまでするの?何でそこまでしてくれるの?何で……俺はそんなに望んでいないのに。


 多分間違っているのは俺の方だ。そんなことはわかっているけれども、目の前に起こっている現象に脳みそがついていかない。感情がショートしてしまいそうだ。望まぬ幸せが降りてきても、素直に受け取れない自分がもどかしい。


 それでも俺は、空気を壊すようなことは言わないでおこう。それだけは心に決めていた。


 バイトを出る時、相変わらず誰からも祝福されなかった。そりゃま、伝えていないからな。店長は書類で目を通している筈なんだけど、興味がないのだろう。そっちの方が楽だ。


 お店を出て、自転車にまたがる。帰ったら乃愛が簡単なケーキを用意してくれるらしい。本番はあくまで明日だから……ん?


 ずんずんと押し寄せてくる黒服の大群。彼らは俺のところで止まり、俺の自転車を荷台に乗せると、そのまま俺を車に引きずり込んだのだった。そう、簡単に言えば拉致である。

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