8月2日その②
その日は午後からにわか雨の予報だった。雨漏りとの戦いに備える必要があるなと、俺は悩んでいた。しかしそんな俺の悩みなんて聞き入れないが如く、乃愛は俺へと愚痴をこぼしていた。俺は何も悪くないのに。
「ちょっと友一、あんたもしかして明日から8日まで毎日仕事なん?」
「あーそういや6連勤だな。因みに9休んで10から15まで仕事。16休んで旅行まで仕事」
「働きすぎやろ!?ってかお盆も全滅なん!?」
「お盆ってのはかきいれ時なんだって。それにみんな帰省しちゃうから時給上がるし。店長からも感謝されてんだぜ?人がいなくて毎年困ってたのに、新倉が来てからはよく回せるようになったって」
「や、それは偉いと思うで!!素晴らしいことやと思うで!!何年かかけて恩を報いようと思っとるで?」
別にいらないんだけどなあと思ったが口にしないことにした。それは議論の本組じゃない。
「そうやなくて、それやと一体いつ誕生パーティやったらええんよ??」
「やらなくていいだろそんなの。あ、昼飯の時間だ。昨日の残り物食べるか?」
「昨日の残り物ってか冷凍チンされてる焼きそばやろ?お祭りのやつ」
「古森家も太っ腹だよな。余った商品集めて冷凍保存して養護施設に配って回ったんだっけ?」
そのお零れを俺は貰ったのだ。家の住所わっかんねえから養護施設に届けといたとかいうふざけたメールを昨日の朝貰った。流石は数少ない子供時代からの知り合い。同じコンクールに出てたってだけだけども、こんな所でお恵みを与えられたのだ。偶には人の願いを叶えるのも悪くないのかもしれないなとかいう、まるで悪魔のような所感を抱いてしまった。
「古村家は何もしなくていいのか?」
「知らん。もうその家と関係ないし。それより!」
乃愛は卓袱台をバン!と叩いた。それに驚くこともなく、俺は電子レンジにタッパーを入れてダイヤルを回した。730W固定の我がレンジにおいて、暖め時間は人の感覚に左右される。とりあえずで2分にしておいた。
「いつにしたらええんやー!!なんか、早上がりの日とかないん?」
「多分早上がりはないな。入りが遅い日はあったような気もするけど」
「その日や!その日にして……」
「え?午前中とかにすんの?辛くね?バイトに支障出る」
「あんた何意識高い系バイトリーダーみたいなこと言っとるん?所詮バイトやろ?」
「俺からしたら生き死にのかかった仕事なんだ……」
ブーブーブーブー
携帯が鳴った。電話が鳴った。相手は近藤だった。誕生日の件だろうか。逃げるように部屋を出ようとした俺に対して、後ろからポツリと声が聞こえてきた。
「別に出よらんでもええのに」




