8月2日その①
夏休みは後ひと月もないという。バリバリ働いてお金を稼ぐ日々もそろそろ終わりということだ。悲しい限りである。2学期からの生活の為、もう少し貯金をしたいところだったが、残念ながら旅行費で消えてしまいそうだ。
「ゆーいち!そういやさ」
相変わらず下着のような薄い服を着たまま乃愛は話しかけてきた。
「誕生日って、いつになっとんの?」
なっているか、という設題が与えられているのは、間違いなく彼女なりの配慮だ。そんなの要らないんだけどな。
「あー住民票上の?」
「そうそう」
「いつだっけなあ。そういや確かに夏休みのどっかだった気がする」
俺は珍しいオフの日に白色のTシャツ1枚と体操服の半ズボンで過ごしていた。藤ヶ丘の体操服は某有名国産スポーツウェアメーカーの全面協力の元、結構センスあるファッションをしていた。公立校なのに珍しい、とは失礼か。だからこうして平日でも着れるし、なんなら名前の入っている箇所は1番腰に近い位置だから、丈の長いシャツを着たらそれも隠せる優れものだ。
「適当すぎん?」
「祝われたことないし。ほら、誕生日ってそういうとこあるじゃん。誰かから祝われたりケーキ用意してくれたりプレゼント貰ったりするから、めでたい日って認識できるんじゃん。逆に誰からも祝われない誕生日とかただの1日に過ぎない」
「何そのOLみたいな発想!あんたあれやろ?大人なったら1人でケーキ買って帰るタイプやろ?」
「何をいう。いつも通り半額惣菜を買って帰るさ」
「もっと酷いわそれ!」
そんな軽口を叩きつつ、俺は去年のLINEを探していた。確か去年の誕生日の日には、鷹翅の樫田さんから連絡が来たのだった。すっと過去へスワイプしていくと、8月8日と書いてあった。
「8月8日だとよ」
「マジ?もうすぐやん!お祝いせんと……」
「良いって別に。去年もしてもらってないし」
「そりゃあんたがなんも言わんかったからやろ!?まさか聞いた時には誕生日終わっとる思わんかったわ」
小学校から一緒なのに、誕生日なんて基礎的な情報すら我々は共有していないのだ。いったいどれだけ歪んでいたのだろう。これだけで垣間見える。
「因みに誕生日は仕事だぞ?」
「は!?!?!?あんたばかぁ!?!?」
「神戸弁が消えてるぞ。せめてアホって言えよ……」
「んなんどうでもええわ!!なんで働こうとしとんねん」
「しかも朝11時から2回休憩入れて夜9時まで」
「1日中やん!何しとんねん!!」
そんなこと言われても……なんで困惑する俺の顔なんて、彼女にとっては些事である。
「これは早速相談しないと……」
「何をだよ」
「誕生日どうするか、決めなあかんやろ?」
ちらっと見えた彼女の携帯には、近藤の名前が画面上部に表示されていた。もしかして彼女にも、伝えるつもりなのだろうか。俺は別に、何もしてくれなくて良いというのに。




