わずかしかない自由な時間が
「お久しぶり」
呼び出された公園にやってきた少女は、闇に良く映える車を従えていた。服はフェス帰り満載なのに、雰囲気はまさしくお嬢様だった。それはかつて、私が失くしたものにとても近かった。
「……何の用?」
「冷たい返事」
「冷たいのはそっちの声色でしょ?いつもクラスでわちゃわちゃした声出してるのに、なんでここではそんな感じなのよ」
「そりゃだって、鷹翅の人間だしね」
「……もう、関係ない」
「そうね。関係ない。関係ないんだから、もう少し前向きになって欲しいなあって」
古森家の跡取りだという話は昔から聞いていたが、まさか同じ学校の、同じクラスになるとは思わなかった。中学から名門私立女子校に通う古村家と違って、ギリギリまで公立の高校に通わせて市井の様子を見せるのだという。というのも建前で、実際はただの放任だ。だからこそ黒服を動員したり、半ば拉致のようなこともできるのだ。
「こんなこと、あんたに向かって良いわけないことはわかってるんだけどさ。でも正直……羨ましいって気持ちもあってさ。ほら、あんな昔の日本の悪い所が全部詰まったような家になんて、関わりたくないったらありゃしない」
「昔の日本人みたいな口調になってるよ」
「あえてよあえて!とにかく、私はもっと自由に生きたくてさ。大学に行って、サークルとか入って、みんなと徹カラしながら死ぬほどお酒飲んで、よくわかんない企画成功させて喜んで、そして……その中でも1番真面目な人と付き合う」
さっきまで月に背を向けていた少女は、その光を浴びるように反転した。私はその姿を、横目で見つつ星を見ていた。
「そんな人生設計なんて、最初からなかったんだけどね。この家に生まれたからさ」
「まあ、私も口酸っぱく聞かされた。鷹翅の当主は、高校卒業後はひどく拘束される」
「そりゃ企業経営の手伝いとか有名人との会食とかで埋まりまくりよ。貴族なんて役職、とうの昔にこの国から消えたはずなのに」
「……嫌じゃないの?」
言った瞬間に無神経なことを言ってしまったと反省した。嫌じゃないわけないじゃないか。私達は華の女子高生だ。何をしても許される時代から、何をしても許されたい時代へ急変革されるなんて、誰が首を縦に振るものか。
「嫌では、ないかな。むしろ恨みが溜まっているからこそ、取り潰したくないなって。あの当主のクソ次男に負けた気がするじゃん。孕ませた姉ちゃん見殺しにしておいて、平気な顔で生きてるなんてさ」




