7月31日その④
皆さんは、一時の感情の高ぶりに身を任せてしまった結果として、突飛のない行動に出てしまい、それが原因でとても恥ずかしい思いをしたことはあるだろうか?テンションが上がり過ぎて知らないおっさんに話しかけたり、悲しみが深過ぎてプラットホームで号泣し始めたり、そんな経験で周りの人から怪訝な視線を集めた経験はあるだろうか。
俺は今、それを経験した。
多分今日の演奏の出来が、自分比あまりよろしくなかったのだろう。冷静に考えてみればいたって普通である。あんな短い準備期間で、即興曲でもないのに綺麗に合わせ切るなんて、鼻っから不可能である。因果のはっきりした結果に対して、メンタルと言うよくわからない指標を用いて たのが最初のミスだ。
更に言えば、前回の即興曲での出来の良さが、ハードルの上昇に一役買っていたように思う。あれこそプラスの意味でハイになっていたのかもしれないが、それを抜きしても楽しい時間だった。それに比べたら、自分含め完成度も低く、手応えもなかったように思う。それは、このステージがそもそも武田達にとってあくまでサブであり、本命は文化祭でのステージだったことが大きいだろう。新田によると、祭りを盛り上げるためにどうしてもと頼み込まれてたらしいし、致し方ないと思った。
そうした要素を全く考えず、うまくいかなかった(ように思った)理由を、彼女のせいにして混乱してしまったのだ。今俺は、つい十分程前の俺を思い返して、顔を真っ赤にしながら河原沿いの道路を歩いていた。
こう言う時は誰に電話をしたらいいのだろう。武田に迷惑かけてごめんって言った方がいいのか、いやバイト代わってもらった古森にお礼を言うのか、はたまた……
わからない、わからないけれど、自分が感情に任せてとった行動に、自ら恥じて後悔していることはまぎれもない事実であったのは間違いなかった。青春はクレイジーで黒歴史だなんて言うけれど、リアルタイムで頭を抱えてしまう結果となった。うーんこれは、これはCRAZY FOR YOUの季節ではなくYOU ARE CRAZYの季節ですわ。何目線だよ全く。
とぼとぼ歩いていると、そういや自転車を置きっぱなしで帰ってしまったことに気づいた。俺らしくない取り乱しである。あれがないとバイトに行くにも学校に行くにも不便だ。しまったなあ、取りに帰ろうかなあ。そう思って歩くスピードを緩めつつあると、ふと電話がかかってきた。
「新倉?自転車忘れてんじゃね?」
それは、つい先程まで一緒のステージに立っていた新田からの電話だった。




