7月25日その③
「私がここに呼び出した理由、わかる?」
目の前に立っていたのはボンテージ姿の女。一方で俺は椅子にコードで巻きつけられた状態になっていた。真っ暗な部屋に連れてこられて、何も対抗しなければこんな監禁された人みたいな格好になってしまっていた。部屋の内装はよくわからなかったけれど、エアコンがかかっていて俺の部屋より快適なのは理解できた。
「少し頼みたいことがあるの。拒否権は、ない」
鞭が撓った。その動線をボーっと見てしまった。案外と自分は暑さでやられているのかもしれない。
「……怖くないの?」
「結構痛そーだなーって」
「その割には目がとろんとしている気がすんだけど?」
「なんか眠くなってきた」
「子供か!!」
鋭いツッコミ。声のトーンでなんとなく誰かわかってしまっていた。どれだけ大人な女性な感じを出していたとしても、彼女のその甲高い声を隠しきれるものではない。
「で?一体なんのようなんだ?というかそろそろ電気をつけてくれないか?古森」
俺は呆れた声で嘆願した。ん?矛盾している?いやまさかそんな、凶器を持った人間に舐め腐った態度取るわけがなかろうて。
「あーもうちょい楽しませてよー。私こういう悪役令嬢的なの一回やってみたかったー」
「どっちかっていうとSM令嬢だろそれ」
古森は正直に、ろうそく以外の灯りもつけてくれた。彼女のボンテージ姿を全容が明らかになったし、部屋内が音楽室のような内装をしていることも理解した。壁に貼られた肖像画、多数の放置された楽器、そして……俺の目の前にあるグランドピアノ。個人の酔狂にしては金が込んだ部屋だ。
「ったく、どうせ……」
とここで、自分の脇の甘さを再確認しずっと黙った。古村家のことかと思ったというのが本音なのだが、それを言ってしまうと何故古村のレンタル黒服について知っているのか詰問されてしまうところだった。
「ん?どうせ?」
「や、いや……」
「どうせ私だと思った??え?そんなのするキャラに思われてた??」
別の方向に勘違いしてくれたようだ。良かった良かったと思いつつ真実っぽく頷いた。
「で?なんの要件だ?」
「そんなの、この部屋にいるならわかるんじゃない?ほら、あんたには見覚えのあるものばかりって感じだし」
辺りを見回した俺は、あまり時間をおかずに回答した。
「あれだな、クーラーの効いた部屋は快適だな」
「いやそうじゃなくて……つうかこの酷暑にクーラー無しとかまじ死ねる」
「窓に映る小鳥が小鳥がさえずっているなあ」
「あんたの見てる窓磨りガラスだって」
「縄解いて」
「……真面目に答える気、ある?」
「あるわけねえだろ拉致られておいて!!」
俺の呆れた顔に、古森は頭を抱えているようだった。




